
- 作者: W. D. Hamilton,Mark Ridley
- 出版社/メーカー: OUP Oxford
- 発売日: 2006/01/12
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Autumn Tree Colours As a Handicap Signal
第14論文は主著としては最後の論文で秋の紅葉の適応的意義について
多くの落葉樹は秋に鮮やかに紅葉する.そしてこれにはいろいろなコストがかかっていると思われるがこれまであまり生物学者の興味を引いてこなかった.
まず他の化学作用の副作用で紅葉するという説.しかしコストから見てありそうもない.
適応的な説としては2つあるがいずれも説明力があるとはいえない.
1.果実を目立たせるため;しかし果実のない紅葉樹も多い.
2.紫外線からの防御;しかしそれなら落葉直前ではなく葉を作るときからのはず
著者はこの紅葉の鮮やかさはアリマキなどの寄生昆虫に対し,防御へのコミットメントを表すハンディキャップシグナルだという仮説を構築する.
この仮説の予測は2点
1.種間比較ではより昆虫の害が多い種ほど紅葉が鮮やかである
2.種内比較ではより防衛にコミットする個体の方が紅葉が鮮やかである.また昆虫もより鮮やかな個体をホストとして避ける
本論文では1.の種間比較を行う.
データ
北半球の262種について,秋に分散するアリマキの害,色の鮮やかさ,その他のコントロール要因(葉の大きさ,木の形,花の色,実の色,分布域の広さ,気候)をデータ化して統計分析(クロス分析と系統関係を調整した分析)を行う.
アリマキについては最近のモノグラフから,色についてはフィールドガイドからデータ採取
結果
アリマキの種数と黄色の鮮やかさが有意
アリマキの特異種の有無が黄色の鮮やかさと,赤の鮮やかさと有意
系統分析を加えるとより有意性が高まる.これはアリマキの害に対して収斂進化したと解釈できる.
考察
1.鮮やかさにはコストがかかっている
黄色のカロチノイドを吸収せずに落葉とともに捨ててしまうコストがある,カロチノイドを残すことによる光合成の機会ロスもあり得る
赤についてはアントシアンの合成コストがかかっている
ハンディキャップならこのコストを説明できる.
2.アリマキの害は樹木にとり重大
アリマキがつくと有意に木の生産能力は落ちる,オークやライムでは木の重量が減少することもある
ウィルス感染リスクもある
赤の鮮やかさで北半球中で有名なカエデは特にアリマキの被害が大きいことで知られる.
3.アリマキは樹木を選り好みする
アリマキのコロニーの成功度は個別の樹木により大きく影響を受ける
このためホストへの選好が進化しやすい
また秋に分散するアリマキは,春の葉についての情報が乏しい,何らかのシグナルの反応する進化が起こりやすい
日本のイロハモミジについての研究によるとアリマキは鮮やかな赤い樹木より黄色っぽい樹木を好む.特に鮮やかなモミジはアリマキがつかないことで知られる
4.アリマキには色への選好があることが知られている.
これまで調べられた数種では黄緑に引かれる,純粋の黄色より汚れたキロを好む種があることが知られている.
議論
以上から紅葉は寄生昆虫へのハンディキャップシグナルとして進化したと考えてよいと結論.
今後は鮮やかさの種内変異と防衛コミットメントについてのリサーチが望まれる.(樹木のリソース量ではなく防衛コミットメントに注目した方がよい,リソースをどう配分するかは別の問題)フィールドリサーチと,コントロール実験の双方が望まれる.またアリマキ以外へのリサーチの拡大も望まれる.特に赤色の進化についてはここが面白そう.
簡潔な論文で結論は説得的.この秋からは紅葉を見る目が全く変わってしまいそうです.