生物にみられるパターンとその起源


非線形非平衡現象の数理シリーズの一冊.生物に見られるパターンということで取り上げられているのはバクテリアの生長,蝶の翅の模様,魚の体表の縞模様など.遺伝子で直接模様を指定しているのではなく,自発的にパターンが創発するような仕組みを形成しているような場合を取り上げている.

基本になっているのは2種類の物質が別の拡散係数を持って拡散することによりパターンが創発するもの.なぜ拡散が異なるだけでいろいろなパターンが形成されるのかが,拡散方程式を使った解や,直感的な説明などにより解説されている.読んでいてもっとも面白いのは,パラメーターや拡散方程式の細部によりいろいろなパターンができあがるところである.
最初のバクテリアのところでいきなりいろいろな成長パターンとその仕組み,そして数理モデルが示されて大変引き込まれる.もっとも充実しているのは蝶の翅を論じた第2章,そもそもの翅のカラーパターンの進化的意義から,タテハチョウ類の翅のグローバルパターンとそこからの派生パターン,そしてそのパターンを生み出す拡散方程式系など大変詳しく論じられていて満足感も高い.

拡散係数以外のモデルも解説されている.個人的に一番驚いたのは体の左右のパリティの決定が,有機分子のキラリティ起源であるという説明であった.章ごとに執筆者が異なり,若干の濃淡やスタイルの違いもあるが内容はそれぞれ面白く飽きさせない.数式の現れ方や解説も適度で,楽しめた一冊になった.