Mean Markets and Lizard Brains

Mean Markets and Lizard Brains: How to Profit from the New Science of Irrationality

Mean Markets and Lizard Brains: How to Profit from the New Science of Irrationality


前作Mean Genesで進化心理学の知見から見た人生のハウツーものを書いた経済学者である著者が,今度は進化心理学的知見をふまえた投資のハウツーものを書いたという何ともアメリカ的な一冊.
その全般の軽さ,イージーゴーイングさは確かにいかにもアメリカ的だが,中身は結構まともで読むに足る.


主張の中心はいわゆるモダンポートフォリオセオリーの中心的な命題である効率的市場仮説は現実から遊離しており,市場は人の不合理性を反映して不合理なものとなっている.人は旧石器時代の狩猟採集世界に適応した心理を持っており,現代の市場には適応していない.感情にまかせて投資を行うと,自信過剰である,常に将来価値を大きく割り引きすぎてしまう,他人と同じ行動をとりたい,本来無いパターンを見つけてしまうという傾向から,株価のピークで買い,ボトムで売ってしまうことになりやすい.現在(2004年)の米国株はフェアバリューかやや割高であり,一般にいわれているよりはリスク回避的な投資方針を勧めるというもの.

厳密に言うと確かに市場の強い効率化仮説は明らかに現状に沿っていないが,本書にある議論では弱い効率化仮説までは否定できないと思われる.しかし株価の上昇率は長期的には経済成長率を超えられないはずであり,今後どこまで高いリターンが期待できるかはIT等による生産性の伸びがポイントである,またリスクがある投資はそれだけで長期的なリターンが高いことの証明にはならないという指摘は的をついている.

本書の議論で面白いのは米国株が100年以上常にベストパフォーマーであったという実証分析に対してそれはサバイバーバイアスの可能性があると指摘するところ.確かに米国以外の壊滅した国の市場もあるし,また今ある世界が唯一のあり得た世界でもないのも確かである.また現代は長くつづいた投資の高リターンからリスクテイクに対するプレミアムが小さすぎるという議論も傾聴に値する.

債券はインフレリスクの折り込みが低く割高,株はフェアバリューかやや割高(ただし生産性上昇次第)不動産は株と同じ.重要なのは過去20年に得られたパフォーマンスが今後も続くと思わないことと主張している.このあたりは(経済予測は当たらないことを職業柄知り尽くしている経済学者としては)思い切った書きぶりで好感できる.また株が上昇したときに抑えられなくなる気持ちをなだめるために(心理的トリックとして)少しは株も保有しているというのも,にやりとさせられる.
15年にわたる株価低迷からようやく抜け出しつつある(2006年4月現在)日本人から見ると少し異なる印象もあるかもしれないが,普遍的に当てはまる議論,アドバイスにあふれており楽しく読める.