読書中 「Genes in Conflict」 第5章 その1

Genes in Conflict: The Biology of Selfish Genetic Elements

Genes in Conflict: The Biology of Selfish Genetic Elements



第5章はミトコンドリアのDNA.
今日は導入部とミトコンドリアのゲノミックス初歩の入門編.まず個体内のコンフリクトがあって,異型接合が進化して,利己的ミトコンドリアという説明順序になるらしい.


第5章 利己的なミトコンドリアDNA  その1



ミトコンドリアDNAは核DNAとは異なった複製経路をとる.一細胞あたりのゲノムは20から10000と変異に富み,異なるミトコンドリア染色体は異なる回数複製される.また娘細胞に渡される染色体はランダムに分離される.つまり細胞の有糸分裂時に遺伝子頻度の変化と分離が生じる.細胞分裂時以外でもミトコンドリアは細胞内で分裂や死亡を繰り返している.
つまりミトコンドリアDNAは細胞内,細胞間で淘汰を受けており,ホスト生物には不利でも利己的に広がるミトコンドリアが進化しうることになる.

もうひとつ,ミトコンドリアに特徴的なことはそれはホスト生物の母系を通してのみ伝わるということだ.これはまず個体内のミトコンドリアの変異が小さいことを意味し,個体内コンフリクトは小さいことが予想される.また逆に母系のみを通じるので常染色体の遺伝子とは雌雄の機能を巡ってコンフリクトを起こす.

植物の葉緑体や昆虫の消化を助けるバクテリアも同じ問題を持つ.本章ではまずミトコンドリアを論じる.
まずミトコンドリアのゲノミックスを概観し,個体内ミトコンドリア淘汰,そしてそれを抑えるための単親からの遺伝という遺伝方式の進化,その結果の常染色体とのコンフリクトという順序で見ていく.


1. ミトコンドリアのゲノミックス


自由生活をしていたバクテリアだったときと比べて,ミトコンドリアのゲノムの最大の変化は遺伝子を極端に失って核染色体に移動させていることだろう.ミトコンドリアのゲノムのコードタンパク質は97から3しかない.いくつかの原生生物ではこれが完成して,ミトコンドリアの代わりに,ハイドロゲノソームと呼ばれるDNAを全く持たないミトコンドリアからの派生物しかないものまである.

動物においてはミトコンドリアのゲノムはそれほど大きく異ならない.大体12-13種類のタンパク質をコードしている.主に電子の輸送とリンの酸化にかかるものである.

襟鞭毛虫では動物のそれよりやや大きい.リボソームタンパク質もコードしているところがことなる.

菌類ではリボソームタンパクのコードは消失している.しかし中には大きなゲノムも見られる

植物では24-40のタンパクをコードしている.種によって変異が大きい.

このコードの核への移転は,中間段階があるところを見るとまずミトコンドリアから核にコピーされ,しばらくは双方で活性を持ち,そしてミトコンドリアのコードが失われるという過程を経るようだ.なぜミトコンドリアのコードの方が失われるのだろうか.ミトコンドリアで消失した方が淘汰上不利でないいろいろな可能性があり得る.たとえばミトコンドリアゲノムは短い方が有利とか,細胞にとってみれば核にワンセットのみある方が効率的だとか,核にある方が雌雄で同じ活性が期待できて有利だとかが考えられる.消失前に核遺伝子によって不活性化されることがあるのかがわかれば興味深いだろう.