Seven Deadly Colours


Seven Deadly Colours: The Genius of Nature's Palette and How it Eluded Darwin

Seven Deadly Colours: The Genius of Nature's Palette and How it Eluded Darwin




これはアンドリュー・パーカーによる「眼の誕生」につづく「色と進化」3部作構想の第2弾.前作はカンブリア大爆発についての「光スイッチ説」の説明だったが,本書は動物の視覚と体色の進化について捕食・対捕食者戦略の観点から説明しているもの.(なお第3作は眼の進化についてのものらしい)
「眼の誕生」がかなり面白かったので,本書の評判を聞いて翻訳を待ちきれずに購入したものだが,期待に違わずなかなか面白い本に仕上がっている.

一般向けに書かれた進化生物学の本で,捕食・対捕食者戦略について面白く解説しているものは少ない.同種個体に対する社会行動の進化や,最適採餌戦略の進化と違って,捕食・対捕食者戦略の進化は,足の速さや聴覚の敏感さと,それを得るためのコストとのトレードオフという単純な話になりやすく,意外な展開を次々に見つけることが難しいというような事情があるように思われる.

しかし本書は,そこを視覚と色という切り口で統一し,捕食・対捕食者戦略の進化を解説したきわめて斬新な本に仕上がっている,また章立ての工夫として,7色の色と,生物が進化で作り出した7種類の発色方法を組み合わせて,7つの物語を紡いでいるところがおしゃれである,

生物が色を作り出す方法が7種類もあるというのがまず驚きである,色素による色,構造色,生物発光,蛍光,ティンダル散乱,錯覚の利用,そして水中でジェット水流を作りそのキャビテーション泡により発光する仕組みである.この7種類の方法と7つの色を組み合わせ,さらに餌,捕食者の探知,性選択のシグナル,カモフラージュ,迷彩,警告色,擬態についての話がエピソードを飾っている.捕食・対捕食者戦略についてはチョウゲンボウの紫外線望遠視覚,タコによる形態と色と動きによるカモフラージュ,擬態の数々,深海魚の赤色発光による採餌戦略など魅力的な例が次々と紹介されている,


いろいろな自然界の制限の微妙さもわかってくる.そもそも色とは実際に存在するものではなく,視覚を持つ動物の脳内で電磁波の周波数スペクトルが解釈されているものであること,動物にとって色素による色は,メラニン色素による茶色,黒,カロチノイド色素による,黄色,オレンジ,赤が代表的であり,それ以外の色素色を作ることは難しい(コストが高い)こと,青,紫は構造色で作るのが多いこと,構造色の作り方は,薄膜による反射,回折格子など各種方法が進化しており,中には量子論で初めて理解できるフォトニック結晶の原理を用いたものまであること,緑を作るのは非常に難しく,通常青と黄色を混合させていること,しかし中にはベンハムのコマと呼ばれる受け手の錯覚を利用したものがあること,など楽しい詳細が満載である.


生物発光のところで説明されたオーストラリアの洞窟に住むグローワームは早速BBCNHKによる最新シリーズ「プラネットアース」において素晴らしいハイビジョン映像で紹介されていた.本書による影響もあったのではないかと思う.この本を読んだあとは,自然界の風景が変わり,生物の色についてもはやこれまでと同じ態度感心でいることはできない.それほど魅力的な本である.