読書中 「Genes in Conflict」 第6章 その1

Genes in Conflict: The Biology of Selfish Genetic Elements

Genes in Conflict: The Biology of Selfish Genetic Elements



今日から第6章に突入.
まず遺伝子変換.DNA修復や交叉においては相同染色体からテンプレートを作るケースが生じるが,この際に相同部分を識別するために一部のDNAを削除して識別部分を一本鎖にするという過程が生じる.この削除部分は相同染色体から修復されるのだが,そこで受動的にバイアスがかかってしまうことがあるらしい.
塩基のATGCでどういう方向に変異が起きやすいかという話と微妙に異なるようだ.



第6章 遺伝子変換(gene conversion)とホーミング(homing)  その1



RNAや,タンパク質分子が障害を受けると,細胞はその分子を解体し,新しい分子に置き換える.しかしDNAに対してはこうはできない,染色体はあまりにも巨大なので,壊して作り直すより修復した方が効率的なのだ.
DNA鎖の片方が傷ついただけならもう片方のDNA鎖からテンプレートを作って修復できる.両方のDNA鎖が傷ついた場合には相同染色体から修復できる.
DNAの修復はDNA合成を伴い,(1ヌクレオチドから数千ヌクレオチドまで)そしてこれは複数のタイプのドライブを引き起こす.

受動的なタイプとしてバイアスのかかった遺伝子変換(biased gene conversion; BCG)がある.他のドライブと同じで,ヘテロの接合子の片方の対立遺伝子をより伝達する仕組みである.このドライブは遺伝子がドライブを生じさせるタンパク質合成を発現して起こるのではなく,DNA修復のメカニズムにあるバイアスの副産物として起こる.つまりある意味で受け身的な形で生じるものである.またドライブはそれほど強くない.実効淘汰係数(effective selection coefficient)で1%以下である.しかし影響は全面的に生じる可能性がある.真核生物のゲノムの形成や減数分裂の進化に重要な影響を与えている.

逆の能動的なタイプの端にはホーミングDNA切断酵素遺伝子(homing endonuclease genes; HEGs)がある.これらは全く主体的に働く利己的遺伝子である.これらはホストへの機能が知られていない,オプション的な遺伝子で,ホストのDNA修復メカニズムを利用して広がる.
HEGsは自分自身が含まれていない染色体を識別して切断する酵素をコーディングしている.その後に細胞がその部分のDNA修復を行うと自分がそこに複製されることになる.HEGsはホストに最小のダメージしか与えずにヒッチハイクして広がることになる.

HEGによりエンコードされている酵素はあまりみられない能力を持っている.DNAをちょうど15-30bpの長さの認識部分で裂く.これはHEGのプロモート以外にもいろいろ使われている.たとえばイースト菌はメイティングタイプをスイッチさせる複雑な仕組みを持っているが,この中心となる酵素は明らかにHEGの酵素に由来している.
分子遺伝学もこの酵素をいろいろ利用している.たとえばショウジョウバエの遺伝子ターゲティングに使われているし,将来的には人の遺伝子治療にも利用できるだろう.


1. バイアスのかかった遺伝子変換(biased gene conversion; BCG)


対立遺伝子が(AB)とヘテロになっている細胞内で,時に片方の対立遺伝子がもう片方に変換されることがある.(AA, BB)
これは伝統的な意味での突然変異ではない.このような変換はきわめてまれだが,通常の突然変異よりは遙かに高頻度で生じる.このような遺伝情報は染色体から染色体に伝えられる.
このような遺伝子変換は細胞内メカニズムの副産物として生じる.同一遺伝子座間だけでなく,別の遺伝子座間でも相同的であれば(同じ遺伝子ファミリーであれば)生じることがある.このためゲノム全体に影響があり得る.
重要なことはこの遺伝子変換はバイアスを持ちうることだ.ABはBBよりAAになりやすいということが起こる.このことが生じやすいという理由だけでこの対立遺伝子は広がりやすいことになる.多重遺伝子ファミリーの場合数百の遺伝子座がある場合がある.このような場合には突然変異が表現型を通じて持つ影響よりも,遺伝子変換のされやすさというバイアスの影響のほうが大きいことがある.


(1) 分子メカニズム

遺伝子変換のメカニズムをよく調べるとBCGは.DNA修復や,減数分裂時の交叉や対合にメカニズムに基づく偶然の副産物だということがわかる.

(私的覚え書き)
DNA鎖には方向があり,端末が5’であれば逆側は3’になる.向かい合うDNAの2本の鎖は逆平行.3'→5'方向の鎖と5'→3'方向の鎖がある.
3'→5'方向の親鎖から合成される娘鎖をリーディング鎖,先行鎖(leading鎖)という。DNAポリメラーゼが読み取る方向と合成方向が一致する。一方,5'→3'方向の親鎖から合成される娘鎖をラギング鎖,遅延鎖(lagging鎖)という.この場合には配列を読み取る方向と合成方向が逆になる


遺伝子変換とDNA修復
DNA鎖がペアで損傷すると,相同染色体からテンプレートを作ってそこにあったであろう配列を復元する.もとのDNAが損傷している部分から5'→3'方向に互い違いに数百ヌクレオチド分削除して,相同染色体との突き合わせを行う部分を作る.X線やUVによる損傷の場合にこのような修復が増える.(p188の図参照)


遺伝子変換と交叉
交叉のメカニズムが遺伝子変換を引き起こす.交叉の開始地点では修復時と同様に相同染色体との突き合わせのために5'→3'方向に互い違いに数百ヌクレオチド分削除される.そしてこの削除された部分の修復は向かい合っていたDNA鎖からではなく,相同染色体から作られる.
そしてもし個体がヘテロだとミスマッチが生じる.カットされなかった相同染色体上の対立遺伝子が5:3で優先される.さらにこのミスマッチ自体は細胞による修復の対象になり,鎖の方向によって6:2か4:4になる.((私見)このミスマッチと修復についてはよくわからなかった)


遺伝子変換と減数分裂の対合
また減数分裂時の遺伝子変換の2/3は交叉とは関係がない.おそらく相同染色体が互いを識別する対合の際に何かが生じているのだと思われる.


バイアス
バイアスは2通りの方法で生じる.
まずそもそも何らかの要因で損傷しやすい対立遺伝子,あるいは交叉の開始地点での削除対象になりやすい対立遺伝子があるとそれは失われやすい.
またこの修復や交叉の分子的なメカニズムの中で相同染色体はベースペアを行う.この際にミスマッチがあると細胞の修復機構によりベースの一つののぞいて相補鎖から修復する.ここででバイアスが生じる.たとえばサルの細胞ではG/Tというミスマッチが生じた場合には92%はG/Cに修復され,4%でA/Tに修復される.種によっても違うが一般にミスマッチが起こるとよりG/Cに修復が起こりやすくなる.(これ自体がメチル化によりC→Tへの突然変異が生じやすいことに対する適応かどうかについてはよくわかっていない.)いずれにしてもこれにより特別な配列の遺伝子がより変換されやすくなる.


(2) 菌類におけるBGCによる実効淘汰係数


BGCによる実効淘汰係数は,減数分裂の結果の4細胞を同時に調べられる子嚢菌類でよく調べられている.大体1減数分裂で4:4以外の分離が1-5%程度生じている.実効淘汰係数は0.1-1.0%のオーダーである.これは本書の他の利己的な遺伝子によるものに比べて小さいが,インブリーディングがあっても十分ドリフトより大きい.