読書中 「Genes in Conflict」 第7章 その7

Genes in Conflict: The Biology of Selfish Genetic Elements

Genes in Conflict: The Biology of Selfish Genetic Elements



利己的な遺伝要素の中でもトランスポーザブルエレメントはどんどん増えたり,複雑な挙動をとるのでホストの進化に対していろいろな影響を与える.かなりテクニカルな話も混じっていて複雑だが,ミクロなゲノムの部分ではこのような影響は大きいということがわかる.ただし具体的にどのようにホストの適応と関連しているのかについての知見はこれからの研究待ちということらしい.


第7章 トランスポーザブルエレメント(転移因子)  その7


3. トランスポーザブルエレメントとホストの進化


挿入が有益な変異を作り出すこと以外にも,トランスポーザブルエレメントはホストの進化に影響を与えうる.トランスポーザブルエレメントが絡むことなしには現れないような様々な変異を作り出せることがポイントだ.


(1) トランスポーザブルエレメントと染色体の再アレンジメント


トランスポーザブルエレメントはホストのゲノム要素について,様々な特異な方法で,重複,削除,再アレンジメントを行うことができる.
染色体上の各遺伝子の位置は近縁種間で異なっている.この様なアレンジのいくつかはトランスポーザブルエレメントが関わっている.ショウジョウバエの近縁グループ間にみられる染色体の一部の逆位についてはその区切り点にエレメントが挿入されていることが見つかっている.


もっとも単純なメカニズムは交叉に関わることだ.相同な挿入がいろいろな場所に起こっている染色体に交叉がかかることで,重複,削除,逆位,転移が生じうることになる.(メカニズムの各種は図7.15 282-283ページ)


より積極的に関わっているメカニズムには以下のものがある


a.オルターナティブ転移
2つの挿入に関わる端を一度に切ってしまうと2つの挿入とその中間にある配列が一度に転移することが生じる.これが別の染色分体(X型になった染色体の片側)に属しているとさらに複雑なことが起こる.


b.オルターナティブエンドジョイニング
DNAトランスポゾンが切り出されたあとに残った両端は単純につながれることがあるが,ここで2つの切り出しが一度に生じて違う端同士が結合すると逆位や転移が生じる.


c.修復ミス
切り出しの修復に絡んで様々な再アレンジメントが生じる


さらにレトロ要素に逆転写酵素が絡む以下のものもある


d.遺伝子重複
LINEのタンパク質は時折「偶然に」違うmRNAを逆転写し,ホストの遺伝子を重複させることがある.これはmRNAから逆転写されるので,イントロンやプロモーターが入っていない.ほとんどの場合この遺伝子は機能せず,プロセス型偽遺伝子と呼ばれる.ごくまれに機能し,タンパク質をコードし,アドバンテージを持ち,固定される.哺乳類のPGK遺伝子はその例である.いずれもポリA配列を3’側に持つという特徴がある.


ボックス 7.4 プロセス型偽遺伝子processed pseudogene

プロセス型偽遺伝子とはmRNAの逆転写により生じたホスト遺伝子の機能的なコピーである.これはLINE由来と考えられている.哺乳類でこの型の偽遺伝子が多いのは,哺乳類ではLTRレトロ要素よりLINEの方が多いことと関連すると思われる.
ヒトゲノムにはこのプロセス型偽遺伝子が3600から13000ほどあると推定されている.生殖系列でよく転写される遺伝子が偽遺伝子になりやすい.
このプロセス型偽遺伝子がLINEやSINEと異なるのは内部にプロモーターを持たず,自分から転移できないことだ.

e. 3’側の形質導入(transduction)
LINEのmRNAは「不正確に」プロセスされ3'側の端にホスト配列を含むことがあり,これはホストゲノムに逆転写され,遺伝子の重複を生じさせる.これを形質導入と呼ぶ.
ヒトのL1因子ではmRNAの端を示すポリA配列の信号が弱く,3'側にホスト配列を含むことがよくある.これはエクソンのシャッフルをも引き起こしているようだ.またこのポリA配列の信号が弱いのは有益変異を作り出すために淘汰されたのかもしれない.あるいはイントロンの中にあるL1因子が転写を終了させるのを防いでいるのかもしれない.((私見)この部分よくわからない)


f. イントロン削除
LTRレトロ要素にコードされているタンパク質は「偶然に」カプセルの中に入りホストmRNAのcDNAコピーを作ることがある.これがゲノムの中に別途組み入れられることはありそうもないが,もとになった遺伝子と組み換えを起こすことはあり得る.これは遺伝子からのイントロンの削除と同じ効果を持つ.イースト菌の遺伝子がイントロンをほとんど持たないのはこれが繰り返し生じたからかもしれない.


ここから考えられることは,トランスポーザブルエレメントは,それがなければ生じないような変異をゲノムに起こさせることによって,長期的にはホストの適応度を上げる可能性があるということだ.これがどの程度生じているのかはよくわからない.
また長期的なコストがあることにも注意が必要だ.