読書中 「Genes in Conflict」 第7章 その8

Genes in Conflict: The Biology of Selfish Genetic Elements

Genes in Conflict: The Biology of Selfish Genetic Elements



トランスポーザブルエレメントのホストの進化に対する影響.
ゲノムサイズにも当然影響を与えている.どうも進化的なタイムスケールでゲノムサイズは徐々に増え,そしてホスト種は絶滅しやすくなるということのようだ.また脊椎動物の免疫の起源とも深い関係があるらしい.


第7章 トランスポーザブルエレメント(転移因子)  その8


3. トランスポーザブルエレメントとホストの進化


(2) トランスポーザブルエレメントとゲノムサイズ


トランスポーザブルエレメントはゲノムのサイズにも影響を与える.挿入により長くなることもあり,また異所性の組み替えにより短くなることもある.トウモロコシのゲノムサイズの最近の増大にはトランスポーザブルエレメントが大きく関わっている.
またオオムギ属の各種のゲノムサイズはBARE-1LTRレトロ要素のコピー断片の量と正比例している.

ゲノムサイズはいくつかの生理的なパラメーター(植物の光合成レート,鳥類や哺乳類の代謝レートなど)と関連することがわかっている.しかし因果関係の方向を見つけるのは難しい.大きなゲノムサイズはコストを伴う例があるのも注目される.絶滅危惧種にはゲノムサイズが大きいものが多い.また一属あたりの種数とゲノムサイズは逆相関する.系統的にはゲノムサイズは増大しているように見える傾向があることと,これらのデータは相反している.きちんとコントロールされた系統分析を行うと興味深い結果が得られるかもしれない.


(3) トランスポーザブルエレメント機能の取り込みとホストの防衛


トランスポーザブルエレメントはいくつかの非常に洗練された酵素機能を持ち,場合によっては他のゲノムにとって有益である.ここでは脊椎動物の免疫系におけるトランスポーザブルエレメント機能の取り込みの例,テロメアの例を見ていく.


a. 脊椎動物の組み合わせ免疫系
ほとんどの脊椎動物IgとT細胞の遺伝子は発現に当たって,スプリットして組み替えを行うようになっている.これはV(D)J recombinationとよばれ(生殖系列T細胞受容体のvariable(V),diversity(D),そして,joining(J)遺伝子断片(gene segment)と免疫グロブリン遺伝子との組換え)リンパ球細胞で生じ,膨大な数の抗原認識を可能にしている.このメカニズムはDNAトランスポゾンの仕組みに類似している.おそらく古代のトランスポゾンがホストの利益のために飼い慣らされたのだろう.
この仕組みでは酵素をコードする部位と認識部位のリンケージは壊されており,また非生殖系列でのみ生じる.その意味でこれはもはや利己的な遺伝要素ではなくなっている.