読書中 「Genes in Conflict」 第7章 その10

Genes in Conflict: The Biology of Selfish Genetic Elements

Genes in Conflict: The Biology of Selfish Genetic Elements



トランスポーザブルエレメントのホストの進化に対する影響.(最後)
トランスポーザブルエレメントをホストの何と考えるか.まれに有益になることはあるとしても平均しては有害であり,利己的な遺伝要素であることから,これはパラサイトだと考えるべきだというのが著者の主張.そう考えるとどう違ってくるのかについては特にふれていない.
最後に起源についての若干の考察があり,この非常に長大な章が終わる.



第7章 トランスポーザブルエレメント(転移因子)  その10


3. トランスポーザブルエレメントとホストの進化


(4) パラサイトとしてのトランスポーザブルエレメント


マクリントックが最初にトウモロコシで動く遺伝子座を発見したときには,この機能について考えたのは当然だった.そして彼女はこれを発達過程における遺伝子のスイッチ機能と関連づけ,これをコントロールエレメントと呼んだ.園芸家により選択されるアサガオなどの色の変異にかかるトランスポーザブルエレメントはこの例だ.
しかしよく調べてみると,トランスポーザブルエレメントは発達においてそれほど大きな役割は果たしていないことが明らかになった.後にマクリントックは環境がよくないときにゲノムを組み替える機能があるのではないかと述べている.これらはいずれもエレメントをホストの適応として考えている.

しかし転移を始める酵素がエレメント自体にコードされているという構造はトランスポーザブルエレメントがホストの適応ではないことを示唆している.(適応であればプロモーターのようにゲノムのどこにコードされてもよいはず)もしホストの遺伝子により動かされているMITEやSINEがあればそれはホストの適応を強く示唆するだろうがそれは発見されていない.また最適コピー数に変異があるようなホスト遺伝子を運んでいることもないし,エレメントが減少するように働くこともない.

では双利共生者なのか.確かに4百万に及ぶ挿入が存在し,まれに挿入が利益になることもある.しかし平均した効果はネガティブであり,我々はパラサイトと考えた方がよいと考える.トランスポーザブルエレメントはホストにとり有害で,ホストの自然淘汰にもかかわらず非メンデル遺伝的に増殖するためにホストにとりついているのだ.


ボックス 7.6 トランスポーザブルエレメントとストレス


マクリントックは「ストレス」が少なくともいくつかのトランスポーザブルエレメントを活性化させており,これは環境が厳しいときにゲノムを「remodel」する機能があるのではないかと示唆した.しかし実際に染色体に生じることを「remodel」と呼ぶのは楽観的すぎる.
ではなぜストレス時にトランスポーザブルエレメントは活性化するのか.
ストレスはトランスポーザブルエレメントを抑えようとするホストのメカニズムを乱すのかもしれない.しかしこれが話のすべてではなさそうだ.トランスポーザブルエレメントには実際にストレスに反応する仕組みがあることが発見された.
おそらくトランスポーザブルエレメントはホストの防衛が弱くなると活性化するように進化したのだろう.あるいはストレス時には挿入はより有益になりやすいのかもしれない.
我々の推測は,ストレス時はホストの修復システムが活性化されており,またホストへの有害な挿入が起こりにくいために,トランスポーザブルエレメントにとって活性化するのに安全な状況なのだろうというものだ.逆にストレスがないときには転移はホストにとりとりわけ有害で,エレメントにとっても有害なのだろう.

4.起源


古代の,キメラ的な,複系統的な起源


トランスポーザブルエレメントが作るタンパク質は複雑だ.複数の機能を持ち,多くの独立した領域がある.系統分析を行うと,トランスポーザブルエレメントの進化の歴史において,領域の獲得と消滅という主題が卓越している.そして領域獲得は他のエレメントからのものとホストの遺伝子からのものの両方ある.LINEの分析の例.(298ページの図参照)
LTRレトロ要素も同様.植物のカウリモウィルスや脊椎動物のヘパドナウィルスの逆転写遺伝子のもとになったとも考えられている.
DNAトランスポゾンは大まかに数系統に分かれている.系統間の領域のスワッピングも生じている.


さらにさかのぼった起源は何だろうか.これは推測にならざるを得ない.LINEはグループIIのイントロンから,LTRレトロ要素はLINEとDNAトランスポゾンのキメラから,DNAトランスポゾンはバクテリアの領域挿入によるキメラから起源しているのかもしれない.またSINEはtRNA起源だと思われる.
またP因子との相同性の可能性も指摘されている.P因子は比較的新しく双翅目においてホスト遺伝子から起源したと思われるので,この方向の研究はトランスポーザブルエレメントの起源にとっても興味深いだろう.P因子はトランスポーザブルエレメントの飼い慣らしから派生しているのかもしれない.