読書中 「Genes in Conflict」 第8章 その1

Genes in Conflict: The Biology of Selfish Genetic Elements

Genes in Conflict: The Biology of Selfish Genetic Elements



今日から第8章
減数分裂におけるマイオティックドライブの一種にフィーメイルドライブがある.メスの生殖系列での減数分裂ではできあがる4つの半数体細胞のうちたったひとつしか卵になれない.当然ながらここに潜り込むための熾烈な競争が生じるわけだ.そしてその仕組みは染色体の端にあるこぶが動原体とともに紡錘極体にひかれることで起こるらしい.
とりあえず今日は導入.これがなぜ簡単に固定してすべての染色体にこぶがあるということにならないのかはこれからの読書のお楽しみだ.


第8章 フィーメイルドライブ  その1


オスの減数分裂においては,二倍体の核はまずDNAを複製し,それから2回分裂を行い4つの半数体を作る.この4つはどれも同じく活性のある精子となる.メスの減数分裂においては最終的に卵として残るのはこの4つのうち1つだけだ.のこりの3つは極体として退化する.
このメスの減数分裂では当然ながらドライブの機会が発生する.遺伝子や染色体が卵にはいる確率を50%以上にできるなら頻度は増加するだろう.これは厳密な意味で減数分裂ドライブそのものだ.
このメカニズムには動原体と紡錘体が深く関わっていて,トウモロコシでよく研究されている.
このメカニズムは当然ながら寄生の機会を生んでいる.またメスの減数分裂において染色体数異常が生じやすい理由ともなっており,ホストの進化にも影響を与えている.


1. 利己的な動原体とメスの減数分裂


(1) トウモロコシの異常な第10染色体


トウモロコシでは(他の生物でも同じだが)メスの減数分裂は4つの半数体細胞が一列になって形成されるようにして生じる.そしてそのうちもっとも卵巣基部(base of the ovary)に近いものが卵になり残りは極体となる.この基部の位置に潜り込める遺伝子や染色体は伝達で有利になる.そして第10染色体にはこれを行う変異がある.

第10染色体はトウモロコシ染色体の中で最小のものだ.そしてこの中には通常タイプ(N10)とこぶつきタイプ(Ab10)の2種類がある.このこぶは新しい動原体として機能する.つまり通常の動原体に加えてこのこぶも紡錘体に付着するのだ.こぶは染色体の端にあり,植物の減数分裂において通常タイプとこぶつきタイプが向かい合った場合には交叉が生じる.さらにこぶは動原体として働くので極側に入り込む.((私見)ここはよくわからなかった.紡錘体極は両側にあるのになぜこぶは優先的に端側に結びつくのだろうか)するとこぶは位置的に4つの半数体細胞の両端に入り込むことになり,このうちのどちらかが卵になる.(303ページの図)伝達レートは70%程度である.

分子的なメカニズムについての研究は始まったばかりである.こぶには2つ以上の挿入や逆位がみられる.挿入部分も複数の領域に分かれ,繰り返し構造もある.(近位に,350bpの繰り返し領域が3カ所(これをTR-1と呼ぶ)中間に正常型の遺伝子が編集されて並ぶ領域,そして遠位に180bpの百万もの繰り返し領域によるこぶ本体がある)この中にcis-actingとtrans-actingな動原体機能を持つ部分が見つかっている.動原体機能は通常の動原体と異なっているらしい.

第10染色体が最小であることは何か意味があるのだろうか.著者は最小染色体は交叉の確率が最も高いことと関係があると考えている.少なくとも交叉が一カ所で生じないとドライブがかからないからだ.またこぶには交叉を発生しやすくする機能もあるようだ.また動原体とこぶが近くにないと別の紡錘体極にひかれて染色体が壊れてしまうリスクを追うことにある.この意味でも最小染色体はこぶにとり有利である.

栽培種だけでなく近縁の野生種にもこれと似たこぶが見つかっている.

((私見)ここまでの最大の疑問はなぜこのこぶが固定してしまわないのか・・いずれ解説があることを期待しましょう)