読書中 「Genes in Conflict」 第8章 その2

Genes in Conflict: The Biology of Selfish Genetic Elements

Genes in Conflict: The Biology of Selfish Genetic Elements


事実は私の予想を超えて衝撃的だ.トウモロコシではすべての染色体に第10染色体上のフィーメイルドライブこぶに寄生したこぶが多数あり,こぶ同士で激しく競争している.こぶはホストにとり有害なので固定しないが,きわめて速い進化の軍拡競争の中にあるということらしい.ダイナミックだ.



第8章 フィーメイルドライブ  その2


1. 利己的な動原体とメスの減数分裂


(2) トウモロコシの他のこぶ


わかってきたことはこのこぶ(TR-1と180bpの繰り返し)を有効に働かせるためのタンパク質があり,このタンパク質をコードしている遺伝子はこぶに連鎖してAb10上にあるということだ.このタンパク質は合成されると細胞質中にただようことになり,連鎖していないこぶも利用できる,つまりこれは寄生されうるシステムだということになる.

実際に調べてみると10本の染色体すべてに(合計22カ所に)タンパク質をコードしていないこぶが見つかる.そしてこのこぶはAb10がある時のみに減数分裂ドライブを見せる.((私見)かなり衝撃的)

このこぶのドライブ確率はこぶの大きさに比例する.そして異なるこぶがヘテロになると大きなこぶが勝つようだ.大きなこぶの方がモーターを多く持ち,紡錘体の中を速く動くことによるらしい.であれば,こぶはより大きくなる様に進化するだろう.集団ごとにデータをとるとAb10の頻度とこぶの多さ,大きさは相関している.


それぞれの染色体にはそれぞれ最適なこぶの位置がある.動原体から交叉がある程度には離れていた方がよく,離れすぎると別の紡錘体極に引かれたときに破壊されてしまう.実際に距離による伝達率の違いや,こぶの動原体からの距離分布をみるとそれが裏付けられている.これはこぶ同士の競争といえる.

そして証拠からみると減数分裂ドライブはトウモロコシの染色体に重要な影響を与えているらしい.主要なこぶはすべてここ10万年のうちに形成されているらしい.


(3) こぶの有害な影響


もしこぶが単に伝達比率をゆがめているだけなら当然に固定することが期待される.しかし実際には固定していないことからこぶには有害な影響があると思われる.これを示唆する証拠として以下のものがある.

実験的に交配すると,花粉を通じてのこぶの伝達率は45%にすぎない.花粉に有害な影響を与えているとみられる.

マルチプルB染色体はこぶなしの染色体を作る.Bのもとでのコストを示唆している.

こぶのDNAは複製効率が悪い.また有糸分裂での異常性の発現率の増加につながっている.


これに加えて動原体とこぶが別の紡錘体極に引かれて壊されるコストが考えられる.このようなコストはこぶの固定を防ぐだろう.定量的な評価はまだなされていない.


(4) 他の生物にみられるこぶ,多量にあるセグメント,新しい動原体


他の動物にも同じ様なものはあるのだろうか.双子葉植物のスイバではメスの通じてのみ伝達率が上昇する第一染色体の端のこぶが見つかっている.こぶ自体の頻度は5%程度である.
こぶ自体は植物による見つかる.多くは多型的で.長い繰り返し領域を持っている.新しい動原体は少なくとも14種の植物で見つかっており,そのうちのいくつかはこぶにある.興味深いことにこのうちの半分は雑種でのみ発現する.これは利己的遺伝要素でよく見られる特徴でホスト側の抑制対応が雑種ではうまく働かないのではないかと思われる.

動物では直翅目で多量にあるセグメントが見つかっておりこぶと同様な働きをするようだ.バッタの一種でメスオスともにドライブが観測されている.この領域はB染色体とも相互作用するようだ.ここでもBと競争関係にあるらしい.あるいはこの領域とBは相同関係にあるのかもしれない.