読書中 「Genes in Conflict」 第8章 その3

Genes in Conflict: The Biology of Selfish Genetic Elements

Genes in Conflict: The Biology of Selfish Genetic Elements


こぶによるきわめて速い進化の軍拡競争の説明の続き.
利己的遺伝要素の中でもこぶは強い軍拡競争にさらされているようだ.なぜ特にこぶについてそうなのかの説明はないが,これはきわめて興味深い.


第8章 フィーメイルドライブ  その3


1. 利己的な動原体とメスの減数分裂


(5) 減数分裂特異的な動原体とホロセントリックな染色体


こぶは動原体と逆方向に引かれると染色体自体を破壊してしまう.このためこぶと連鎖していない遺伝子はこぶの新しい動原体機能を抑制しようとするだろう.
もうひとつの方向性は,このこぶと連鎖していない遺伝子が(こぶではなく)もともとの動原体が紡錘体極に引かれるのを抑制しようとすることだ.もし減数分裂時のみにこの抑制が起これば,この染色体は有糸分裂と減数分裂で異なる場所が動原体になるだろう.関連していることが「ホロセントリック」な染色体で生じている.この染色体では有糸分裂時に動原体が拡散し,染色体全体が紡錘体極に引かれる.おそらく減数分裂時特異的な利己的な動原体が有糸分裂と減数分裂で異なる動原体を持つように進化を促し,そしてついにホロセントリックになったものではないかと思われる.


(6) 利己的な動原体と第一減数分裂


トウモロコシの新しい動原体(こぶ)は第一減数分裂期に活性化し,第二期にドライブがかかる.通常の動原体は第一期に分離するので,何らかのドライブをかけるにはこの時期の非対称性を認識して利用しなければならない.おそらくB染色体も同じことをしているのだろう.直接の証拠はまだ無いが傍証はある.

まず動原体の配列は進化的なタイムスケールの中できわめて迅速に変化する.典型的な動原体のコアは(種ごとに決まった数の)150-200bpの繰り返し領域からなっている.これはすべての染色体で同じ配列であり,B染色体でも同じ配列を持つ.コアには複雑なDNAがあり,動原体特有のヒストン(Cen H3)が繰り返し配列に付加している.
非常に驚くべきことにこの繰り返し領域の数はきわめて固定的にもかかわらず,配列の変異スピードは真核生物でこれまで見つかった中で最速である.同様に動原体以外のヒストン(H3)のコード配列はもっとも安定していることで有名だが,この動原体特有ヒストン(Cen H3)の配列変異スピードはきわめて速い.そしてこれは性の淘汰による進化であるというデータがいくつかの生物から得られている.なぜ機能は同じだと思われるのに動原体領域は速い進化を行うのだろう.
これが何かの軍拡競争的な進化だとすると,どのようなことがあり得るだろうか.メスの減数分裂において動原体は常に極体より卵になる極に向かって結合するように強い淘汰圧がかかっただろう.また動原体ヒストンにも同じ淘汰圧がかかるだろう.
またこの動原体の繰り返し配列は近縁種の有性種と無性種との間で比べると有性種で有意に長くなっている.また有性種で大きく多型になっている.

二つめの傍証はメスの減数分裂において減数分裂が失敗することが多いことだ.ヒトでは妊娠の10-25%は染色体数の異常があると考えられている.これはオスにおける異常値より有意に高い.これは利己的な動原体によるものだと考えればうまく説明できる.