読書中 「Genes in Conflict」 第11章 その3

Genes in Conflict: The Biology of Selfish Genetic Elements

Genes in Conflict: The Biology of Selfish Genetic Elements



今日は謎めいた体組織でのDNA消失,染色体縮小だ.あまり進化的な説明はなく,淡々と不思議な現象が記述される.生殖細胞系列には存在するDNAが体組織では消失する現象がいくつかの生物で見られるというのだ.
まずカイチュウ類.ごく一部の寄生種でのみ見られるらしい.著者は生殖細胞系列に不要なDNAが蓄積しそれが体組織で削除されていると考える他の説明はないとしている.何故,どうしてという疑問がいくつも心に浮かぶが,要するにわかっていないということなのだろう.通常は(ホスト側が勝ち)すべての系列から削除されるか,(利己的遺伝子側が勝ち)両方の系列に残るかのどちらかなのだが,何らかのバランスにより体組織だけ消失すると考えるべきなのだろうか? 何故寄生種なのだろう?

染色体の縮小自体も0-95%まで多様だが,残る体組織染色体はほぼ同じ大きさになるらしい.ここから著者は生殖¥系列のどのような機能を考えても矛盾するとしている.何らかの機能があるとするとこのように排除率が多様なことは説明できないという意味らしい.また体組織ゲノムもこれ自体によって何の利益も得ていないようだとしている.

またメクラウナギとカイアシ類でも見られるらしい.これらについてはよくわかっていない.

最後にゾウリムシの仲間について.これらには生殖核と栄養核があり,機能的に生殖系列と体組織系列に類似するということだ.昔そのようなことを読んだ気もするが遙か記憶のかなただ.生殖核は2倍体で有糸分裂を行い,転写的には非活性である.栄養核は発芽により無糸的に分裂し,転写が非常に活発である.生殖核のみ有性サイクルに関係する.接合後,栄養核は消失し,新しい栄養核が生殖核から派生してできるということらしい.
そして調べられている種ではすべて小さなDNAが栄養核から排除される.繊毛虫類は十億年以上前に我々と別れた系統であり,このような巨大栄養核と染色体の細分,縮小化が何度か独立に進化したようだという.きわめて興味深い現象だ.今後の研究の進展を待ちたい.





第11章 利己的な細胞系列 その3


1. モザイク


(4) 利己的遺伝子と生殖系列に限定されたDNA


生殖系列の分離は,ホストにとり有害でドライブする遺伝子にとっては重要な事実である.多くのB染色体は体組織より生殖系列細胞へ入り込もうとする.多くのトランスポーザブルエレメントは生殖系列の中だけで活発だ.
もっとも極端なのは,体組織の中では自分を切り刻んでなくしてしまい,生殖系列の中だけに残る利己的なDNAだ.なぜ体組織の中でなくなる必要があるのかはよくわかっていない.


a. 線虫 Nematodes


1887年にBoveriによって記載された,ウマカイチュウの体組織の染色体縮小は,おそらく利己的な遺伝要素の最も早い報告である.これはおそらく,生殖系列に不要なDNAが蓄積し,それが体組織で削除されているものだと思われる.

P. univalensにおいては半数体ゲノムは,体組織から排除された巨大な異質染色質と真性染色質の入り組んだ複合的なひとつの染色体を構成する.巨大なひとつの真性染色体ブロックが50の染色体に細分化される.異質染色質は2つのリピート領域ブロックから構成され,多様性に富む.このようになっている理由はわかっていない.

またAscaris lumbricoides(回虫の一種)ではrDNAが生殖系列に侵入するように見えることも興味深い.多様なリボソームが卵母細胞にみられるが,すべて排除される.


b. メクラウナギとカイアシ


8種のメクラウナギの体組織で染色体の排除が,発生の初期段階で生じる.9種のケンミジンコで染色体縮小が知られている.


c. 繊毛虫


調べられたすべての種で,小さなDNAが栄養核から排除される.栄養核に残ったDNAは何倍にも増殖する.小さな染色体が大きめの染色体に分割吸収され,その際に境界部分のDNAが消失する.

繊毛虫は他の原生生物から十億年以上前に分離した系統である.真に原始的なグループのみが巨大栄養核を欠いている.栄養核と染色体の細分.縮小化は独立に何度か進化したようだ.このこととトランスポーザブルエレメントの関連は興味深い.