Genes in Conflict: The Biology of Selfish Genetic Elements
- 作者: Austin Burt,Robert Trivers
- 出版社/メーカー: Belknap Press of Harvard University Press
- 発売日: 2006/01/15
- メディア: ハードカバー
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本書の最後のトピックはキメラ個体の細胞系列間のコンフリクトだ.個体がキメラであれば,どちらが生殖系列にはいるかを巡ってのコンフリクトが生じることが予想される.
通常の個体はクローンだが,ほんの少数の母親の細胞が混じっていることがある.このことによる何らかのコンフリクト現象は見つかっていない.またヒトにおいては全身がキメラになることはあまりにもまれなので進化的影響はないだろうという.しかし過去キメラの個人は見つかったことがあるようだ,
非常に興味深いのはマーモセットとタマリン類で,これらは双子間で通常キメラになっているという.ちょっと聞くとコンフリクトが増えそうで何故このようなことが進化するのか不思議だ.もっともキメラは自分と兄弟の血縁認識が(情報不足などで)近づくので逆に双子間ではコンフリクトを減らせることにつながるという.逆転の発想というべきか,ちょっと思いつかない観点だ.ということで本件にかかるHaigの論文も読んでみた.
マーモセット以外ではカイメン,刺胞動物,コケムシ,ホヤなどがキメラになっている動物である.遺伝的に異なる細胞群が融合してキメラになるらしい.無性で胞子を作る場合にコンフリクトとドライブが観測されるという.
第11章 利己的な細胞系列 その4
2. キメラ
しかしいくつかの分類群では動物はキメラになっている.このようなキメラが常に起こっているなら個体内の遺伝的なコンフリクトが生じるだろう.まず細胞系列は生殖系列を代表することを争うだろう.2番目にキメラが体組織のみであっても他個体に対する血縁係数が異なれば,それによるコンフリクトが生じるだろう.
(1) キメラの分類学的な探索
ほとんどの分類群ではキメラは生じない.
ヒトでは子宮内でキメラが生じることがある.よく見られるのは血液だ.2卵性双生児や3つ子において兄弟の血液が混入していることがある.また母親の細胞が数十年後にも混じっていることもある.これまでこのような低レベルの「マイクロキメラ」による生物学的な影響は免疫不全症候をのぞいて何も見つかっていない.
非常にまれには全身のキメラが生じる.
マーモセットとタマリンにおいてはキメラはよく見られる.
生殖系列がキメラかどうかはわかっていないが,そうでないとしても生殖系列とクローンである体組織系列とそうでない体組織系列の間で,子供の血縁係数を巡ってコンフリクトが生じる.たとえば母親にさらに妊娠してほしいかどうかということで利害が衝突するだろう.Haigはマーモセットの社会行動(群れの中で優位メスが繁殖を独占し,子供たちはヘルパーとなる)の進化にとってこのことは重要だっただろうと想像している.
生殖系列の代表を遺伝的に異なる細胞系列同士が争うのは海産の無脊椎動物でみられる.カイメン,刺胞動物,コケムシ,ホヤなどだ.これらの生活史では遺伝的に異なる細胞が融合することが普通にある.