読書中 「Moral Minds」 第3章 その3

Moral Minds: How Nature Designed Our Universal Sense of Right and Wrong

Moral Minds: How Nature Designed Our Universal Sense of Right and Wrong



第3節は2節までに触れた道徳文法のパラメーターセットにかかる文化差の具体例の紹介だ.例にとられるのは若い男性の暴力傾向と,ニスバートとコーエンによるアメリカの南部の名誉の文化の研究だ.それによると家畜泥棒に対し法律を自分の手で守らせなければならなかったところに報復主義の暴力の心理が生まれる,暴力の文化は牧畜のあるところで発生し,そしてそれは妻の浮気への対処に波及するということらしい.面白いのは南部の都市は北部に比べて2倍の確率で,その名前にgun, kill, warが含まれているという指摘だった.ちょっと勇ましい名前を付けたがるということらしい.


わざと怒らせてみる実験の結果も紹介されており,南部の若い男は名誉がかかるとコルチゾールレベルが有意に上がり,怒りを報告し,行動も変わるということだ.
そしてその文法は広範な影響を法律,組織,社会政策に与えており,銃規制,正当防衛の範囲,国防政策への賛意,子供のしつけと暴力,刑罰の強度などに気温や経済,奴隷制の歴史では説明できない地理的パターンを示しているといっている.
ある意味当たり前といえば当たり前の結果だが,それが非常に小さいパラメーターの差だと思うと,結局大統領選挙にも直結するわけでなかなか巨大な結果という気もする.

ハウザーは,「名誉の文化では,皆が侮辱に対して暴力で報復するようになると,それは事実から義務になる.そして自分でフィードバックするシステムになる.ここから抜け出すには,皆がそうするという認識を破るしかない.うまくそうしないサブカルチャーを作ることができればよいのだ.」とまとめている.


暴力に関しての名誉以外のパラメーターとして誘惑のコントロールと,時間割引があげられる.これには個人差があり割引率が高いと,何かに中毒になったり社会的に不安定になったりし,暴力がより選択されやすくなると説明されている.実際に将来の成功の確率が小さいなら,割引率を大きくするのが合理的だ.割引率と暴力を示すリサーチとしてはデイリーとウィルソンによるシカゴの殺人研究が紹介されている.

さらに別のパラメーターとして権威に対する服従の度合いがあげられている.ミルグラムの人がどこまで命令に服従するかの実験を紹介して,人に権威に盲従する性質があることを示した後これの文化差も説明する.ミルグラム実験で実験者に命じられて一定以上の強いショックを与えるスイッチを押してしまう人の割合はドイツ 80% アメリカ 65% オーストラリア 40%となることが紹介されている.ドイツ人についてはさもありなんという感じだが,日本人も結構高い比率なのだろうか.



第3章 暴力の文法


(3)マッチョな文化




関連書籍




Evolution and the Capacity for Commitment (Russell Sage Foundation Series on Trust, V. 3)

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私が最初にアメリカ南部の名誉の文化についてのリサーチを読んだのは,ネッシーのコミットメントについての論文集だった.そこではコミットメント問題として名誉の文化が分析されていた.初めて読んだときは結構衝撃的だった.「風と共に去りぬ」もこういう背景を知るとまたより楽しめる.
またこの本は進化心理を考えるときの非常に興味深い問題であるコミットメントについての非常に面白い本だ.フランクの議論について少しでも興味がある人には大推薦だ.




デイリーとウィルソンのシカゴの殺人研究は有名だ.

Homicide: Foundations of Human Behavior

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The Truth About Cinderella: Darwinian View of Parenting (Darwinism Today S.)

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訳本

人が人を殺すとき―進化でその謎をとく

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シンデレラがいじめられるほんとうの理由 (進化論の現在)

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また最近バスの本も邦訳された.


The Murderer Next Door: Why the Mind Is Designed to Kill

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「殺してやる」―止められない本能

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原書についての私の書評はhttp://d.hatena.ne.jp/shorebird/20060708