読書中 「Moral Minds」 第4章 その3

Moral Minds: How Nature Designed Our Universal Sense of Right and Wrong

Moral Minds: How Nature Designed Our Universal Sense of Right and Wrong



第5節は行動を起こすエンジンとしての感情を取り上げる.この節の議論はダマシオの議論と関係が深そうだ.
9.11でホワイトハウスをねらった飛行機に乗り合わせた乗客の勇気ある行動を例にとり感情の役割を議論する.ハウザーはどこまでユニバーサルな感情かという議論,カント的モデル,ヒューム的モデル,ロールズ的モデルの違いに少し入った後,感情の発達に話を移す.まず,他人により利他的に振る舞う基礎になる共感についてが取り上げられる.


妊娠後期には胎児は母親の声を聞くと心臓の鼓動を早めるという話や,新生児,数週間の幼児の観察事実などから,幼児にはかなり早い時期から共感empathyの感情があるという.そして2歳ぐらいから他人について期待を持つようになり共感はオートマチックな反応ではなくなると説明している.


結局この節は感情についていろいろな議論を紹介するにとどまっている印象だ.最後にハウザーは道徳判断における感情の役割と,実際にどう行動するときの感情の役割を区別しなければならないと釘をさしている.



第6節は感情の中で嫌悪について
共感とは逆に嫌悪は他人に対して厳しく対応する引き金になる.


まずハウザーは嫌悪のもともとの進化的な適応価として食べ物の味に関するものだったろう,そしてそれが臭い,触感,視覚に,さらに道徳観に広がり,非道の行い,それをする人に対して嫌悪を抱くようになっているのではないかと推測している.


ここで道徳と嫌悪はどちらが先かという問題を取り上げる.
そして人類学者フェスラーの議論を紹介している.

この問題は道徳が先だ.もし嫌悪が先なら,肉に類似したものへの嫌悪感について道徳に基づく菜食主義者は健康に基づく菜食主義者より強いだろう.しかし観察結果はそうではない.だからまず道徳的な判断があって,それから嫌悪感を感じるのだ.


それから嫌悪の特徴として意識的に操作できないし,他人に伝染することをあげている.

新品の尿瓶でジュースをのんだり,イヌの糞の形をしたチョコを食べることを人は避ける.私たちは病気感染に関わることを嫌悪するように適応しているのだ.プロセスはオートマチックで一瞬であり,反応は強力だ.なかなか尿瓶でジュースは飲めない.また嫌悪対象は関連あるものに伝染する.ヒトラーが着たセーターも嫌悪対象となるのだ.

そして政治的な警告として,この反応を使うと扇動が容易いことを指摘している.何らかの外集団に対して,彼等は害獣や寄生虫だと宣言すればよいのだということだ.


また別の特徴として,食べ物の次に性行為に関することに嫌悪感は多く表れることを指摘している.ホモ,幼児性愛,インセストなどのことだ.ウェストマーク説について少し触れている.


第5,6節は感情についてとりとめなくいろいろな話題を取り上げているという風情だ.あまり適応的な議論が取り上げられていないのは残念だ.共感の適応価とか,嫌悪が広がりやすいこと,特に性行為に関して現れることの適応的な議論は興味深いだろう.




第4章 道徳器官


(5)心の痛みと内臓的反応


(6)ゲッ!