読書中 「Moral Minds」 第6章 その2

Moral Minds: How Nature Designed Our Universal Sense of Right and Wrong

Moral Minds: How Nature Designed Our Universal Sense of Right and Wrong



第5節は道徳と関連の深い忍耐力について.
動物はどこまで待てるのか.私はあまり詳しくないのだが,心理学ではマウスとハトについてたくさんのリサーチの蓄積があるようだ.ハウザーはほとんどの動物は数秒以上待てないことを結論として述べ,さらにそのわずかな忍耐力についてはそれぞれの種によるニッチにより領域特殊的である(昆虫食のサルは植物食のサルより時間に関しては待てないが,距離を行くことには忍耐できるなど)として,進化適応のあとがあるとしている.忍耐力が進化適応であるのは納得できる.


第6節は暴力の抑制について
ローレンツのとなえた服従姿勢による抑制について,至近的な説明がある.セロトニンが役割を果たしているとハウザーは説明している.そしてこのセロトニンレベルについては自然淘汰で水準が変わることは容易だとして,キツネの家畜化実験が語られる.(累代飼育してヒトが近づいても逃げない性質に淘汰をかけると,人なつこく,脳が縮小し,犬歯が小さくなり,さらに(攻撃性と関連がないように思われる特徴として)耳がたれ,白いブチができ,幼形個体に似てくるというもの)
これ自体大変興味深いが,結局その究極因の説明にまで行かないのは何とももどかしい.ハウザーはこのような形質が適応形質である可能性を示すことのみを意図しているようだ.


第7節は共感について
動物が共感を示すかどうか調べた実験が紹介される.
ネズミの実験.レバーを引くと隣の個体に電気ショックが走り,自分も一定時間餌がとれなくなる.それでもネズミはレバーを引くのをしばらくの間遅らせた.また別の実験では,つり下げられた同種個体をおろしてやるためにネズミはレバーを(何の報酬がなくとも)押した.
リーサスモンキーで餌のレバーを押すと隣の個体へ電気ショックが生じる実験を行うと,ネズミよりはるかに長い時間(ある個体では12日)レバーを押すことを控える.自分も電気ショックを受けたことがある方が長く,電気ショックを受ける個体が同じグループに属しているほうがより長く控える.同種個体に対してはウサギより長く控える.

これらの実験の解釈は簡単ではないが,ハウザーはこれは共感である可能性があるとしている.


この第6章を通じてハウザーがいいたかったのは私たちの道徳の基礎となっているいくつかの能力が他の動物にも存在する可能性があるということ,そしてそれがフルに発達しているのはヒトだけだということらしい.ヒトの道徳自体が進化による産物だと考えるならこれは当然のことだろう.


第6章 正の起源


(5)待つことを評価する


(6)暴力を飼い慣らす


(7)他人の真実によって誘惑される