読書開始 「The Evolution of Animal Communication」

The Evolution Of Animal Communication: Reliability And Deception In Signaling Systems (MONOGRAPHS IN BEHAVIOR AND ECOLOGY)

ここまで宗教，道徳とちょっと重めのヒトの話題を扱う本を読んできたこともあり，次はかっちりとした行動生態的なものを読みたくなった．

そこで選んだのが本書である．動物の信号については性淘汰理論が注目を集めていた90年頃から興味深く思っていた．1年半ほど前にメイナード＝スミスとハーパーによるAnimal Signalsを読んでかなり頭が整理されたのだが，さらに本書も読んでみようという趣旨である．メイナード＝スミス本では，インデックスとハンディキャップシグナルの違いに非常にこだわっていて，その部分はよく理解できなかったこともある．

Animal Signals (Oxford Series in Ecology and Evolution)

本書はPrinceton University Press の Monographs in Behavior and Ecology シリーズの一冊で，このシリーズはなかなか素晴らしい本が多いので油断できない．メイナード＝スミス本のあとに出版されているので，当然それをふまえているだろうことも楽しみなところである．

イントロダクションでは本書執筆の動機として，進化的に見て，特にハミルトン以降の自然淘汰の理解に照らして，何故信頼できる信号があるのかについて考えていきたいとしている．淘汰が個体に対して働くなら動物のコミュニケーションにはだまし，操作の要素が期待できるだろう．しかし受信者はこれに対抗するだろう．すべてだましであればそもそも受信者は信号に反応しないだろう．であればそもそも信号システムはどうしてあるのだろう．まさに私が信号に興味を持つ理由と同じだ．

関連書籍

これまでに読んで印象的だったMonographs in Behavior and Ecologyを紹介してみよう．

Levels of Selection in Evolution (Monographs in Behavior and Ecology)

まずこの本．1999年出版．題名を一見すると「一体自然淘汰の単位は遺伝子なのか個体なのかグループなのか」という，いまや陳腐なことを扱ったもののように思うが，そうではなく, 遺伝子や生物個体にある集団構造があるときにどのような力学で自然淘汰が働くか，どのようなコンフリクトがあるのかを扱ったいろいろな論文が並んでいる面白い本だった．ゲノム内淘汰，性淘汰，社会性昆虫における淘汰などが論じられている．

Foundations of Social Evolution (Monographs in Behavior and Ecology)

これはフランクによるハミルトン的な理解を定式化した美しい数理生物学の本だ．プライスの等式から始まって見事な微分的解法が展開されている．

The Evolution of Parental Care (Monographs in Behavior and Ecology)

クラットンブロックによる親による子への投資を扱った本．投資量は結局生態要因で決まるので，定量化も評価も難しいことがよくわかる．

Sexual Selection (Monographs in Behavior and Ecology)

1994年とちょっと古いが性淘汰を包括的に扱った本では私の知る限りもっとも意欲的な本である．前半の理論編では信号の進化についても触れられている．

あとは入手済みだが未読のもの．いずれ腰をすえて読まねば．

Female Control: Sexual Selection by Cryptic Female Choice (Monographs in Behavior and Ecology)

Sexual Conflict (MONOGRAPHS IN BEHAVIOR AND ECOLOGY)

Mating Systems and Strategies (Monographs in Behavior and Ecology)

Polygyny and Sexual Selection in Red-Winged Blackbirds (Monographs in Behavior and Ecology)