雑誌 こころのサイエンス02

shorebird2007-06-28


本雑誌は,日経サイエンスの2007年7月臨時増刊号で,「SCIENTIFIC AMERICAN MIND」の2006年12月号の内容を中心に,暴力行為と脳の仕組み,子どもの心の発達,片頭痛の治療法など,脳科学と心理学のさまざまなテーマを取り上げ構成したもの.この米国の雑誌は隔月刊らしいのだが,何故去年の12月号が今発売になっているのかはよくわからない.
「SCIENTIFIC AMERICAN MIND」はhttp://www.sciammind.com/issues_directory.cfm によるとこれまで15冊ほど刊行されているようだ.日本ではこのうち何冊かが別冊日経サイエンスや日経サイエンス臨時増刊号としてだされている.前回が2006年12月号の臨時増刊として「こころのサイエンス」ということらしいが詳細は不明だ.


いずれにせよなかなか面白そうだし,980円とお手頃な価格になっている.

こころのサイエンス02


最初は暴力について.至近因の部分の仮説が紹介されている.前頭葉の異常によって,わかっていながら衝動を抑えられないのではないかという前頭葉仮説.ハウザーの本でも紹介されていた「失敗する(=逮捕される)犯罪者は成功する犯罪者より灰白質が小さい」という知見も紹介されている.もちろんこれで説明できる部分は暴力のごく一部であると断りながらも,このような犯罪者に責任を問うことの意味を考えるように示唆している.
要するに予防ということだが,それはそれでとても難しい実務的な問題があるのではないだろうか.


続いて脳スキャン画像を法廷で使うことに反対する記事.そもそも確定的なことはわからないし,被告側に面積のための証拠を認めるなら,それは検察側にも訴追のための証拠を認めることになり,人権的にも問題が生じるだろうといっている.
ある意味米国における刑事法廷の実情が見えてくるようで興味深い.


次は偏頭痛についての記事.これは血管の収縮の問題だと理解していたが,さらにその原因を考えると三叉神経の過剰反応で,それはストレスに起因するということらしい.日本語版の追加記事として予防体操まで紹介されているのが丁寧だ.


次は他人との協調や模倣が人の認知の本質に深い関わりがあるという記事.さらに日本語版独自記事として犯罪プロファイリングの記事が掲載されている.これは興味深いが,やや雑誌のテーマからはずれているという印象.次は自閉症の早期発見の記事.血液検査である程度わかるらしい.


次の「ヒトはなぜ泣くのか」という記事は面白かった.この記事では,まず泣くことはこころの平衡を保つための適応だと論じたあと,涙について結局これはハンディキャップシグナルで,涙を流すことは視野を妨げるというコストがあるので深い悲しみを表すハンディキャップだという説明を試みている.悲しみの涙の適応的意義については私も興味あるところだ.確かに嘘泣きは涙が出にくいとされているが,どうだろうか.私の感覚では涙で視野が妨げられることがシグナルの正直さを保つほどのコストだとはなかなか思えない.いずれにしてもなかなか実証は難しい仮説だろう.


最後の記事はなかなか逆説的で面白い.多くの場合,若者が危険行為に走るのは,彼等が不合理だからではなく,合理的だからこそ比較考量して(比較考量の際に危険を過小評価するかもしれないが)リスクを取るのであって,大人は合理的な計算をする前にばかげた行為を直感的に選択肢からはずしてしまうのだという議論だ.興味深い議論のように思う.


この雑誌は「こころのサイエンス02」と名うたれているので,以下続刊が期待できそうだ.ちょっと気になる雑誌になりそうだ.