読書中 「The Evolution of Animal Communication」第2章 その3

The Evolution Of Animal Communication: Reliability And Deception In Signaling Systems (MONOGRAPHS IN BEHAVIOR AND ECOLOGY)

The Evolution Of Animal Communication: Reliability And Deception In Signaling Systems (MONOGRAPHS IN BEHAVIOR AND ECOLOGY)



雛による親からのエサねだりモデルはまた別の拡張がある.それは資源総量のコントロールを親にあると見るのではなく,雛の立場から親の持っているリソースへのスクランブル型競争としてモデルを組み立てるものだ.(雛に与えられる資源総量コントロールは雛が行うことになる)ここは最初にモデルが説明されたあと著者たちの詳しいコメントが入っている.

パーカーほか Parker et al (2002)
2羽の雛がリソースを争う.親は信号強度の相対値にあわせてエサを与える.信号強度は親がアセスして雛の競争的能力により修正される.雛A,Bの信号強度をxa, xb, 競争力をa,bとするとAが得るシェアは(axa/(axa+bxb)) となる.
信号コストは信号強度と線形比例する.

ロイルほか Royle et al. (2002)が指摘するように,このモデルの結果をを信号のモデルとして解釈すると,たとえば親は信号に反応する.エサねだりはコストがかかる.信号は(少なくともある意味では)正直であるという結果が得られる.つまり正直信号モデルと同じような結果を示す.

ここからは著者たちによる定数cについての解説になる.


定数cが雛の状態を表し,状態が悪いほどエサ要求が高く,親がそれを知りたいと解釈するなら両モデルの結論は同じだ.
ただし,エサ要求は雛から見たエサ1単位あたりの適応度増加量と解釈することもできる.こう解釈すると親が知ることによる利益もわかりやすくなる.定数cをよく見るとエサが多いときには状態が悪い雛(c=1)の方がエサ1単位における適応度利益が多いが,エサが少ないときには逆になる.つまり,エサ要求の必要性の定義によってはこの信号は正直といえないことになる.


するとそもそもの利益関数 f=B(1-e-cy) もよく考える必要が出てくる.
この関数型のいいところは最初にもらうエサはとても効果が高いが,だんだん効果が逓減し,最後に飽和するというところだ.また状態のいい雛が先に飽和するということころもいい.
しかし必要性を飢餓の程度,あるいは最後の餌を食べてからの時間と考えると,この関数型では食べたばかりの雛も飢餓状態の雛も同じ適応度から始まることになる.状態のいい雛は最初により適応度の高い状態からスタートすると考えるべきだ.
これをモデルに取り入れるにはカーブはすべての雛で同じ(例えばc=5)とし,いい状態の雛はより左にずれたカーブを持つようにすればいい.


もとの仮定


改訂した仮定


正直信号モデルもスクランブル競争モデルも,必要性を飢餓と解釈すれば信号は正直になるという同じ結論になる.そしてハンディキャップ理論の検証ともなっている.両モデルの差は,スクランブルモデルはより高いコストを要求するというところだ.これは両モデルを検証するときに有用だろう.


最後に著者たちによるここまでの結果の解釈が述べられている.まずコストが高すぎるのではないかということについては,よりモデルを現実にあわせれば緩和できるのではないかと示唆している.

モデルは複雑さを増しているが,それでも現実にはかなわない.例えばこれらのモデルは信号・エサやりは1回きりと仮定しているが,実際にはそうではない.私たちはおそらくこの部分をモデルに取り入れれば,信号を出さないという選択肢の不利さがより強調され,よりコストの安い正直な信号モデルになると考えている.(実際に信号を出さない雛に対しては親は自分やパートナーが与えたエサをそれぞれの子についておぼえていなければ常に平均的な必要性を仮定せざるを得ず非常に非効率的になると思われる)


最後にまとめだ.

動物が血縁者にエサをねだるときに信号は正直になりうる.信号がプール型という条件ならコストフリーの信号も進化しうる.信号にコストがかかれば,より情報量のある連続的信号が進化できる.
血縁度が高いほどコストは小さくともよい.
また雛間の競争という文脈が入れば,ある意味での不正直さが信号に混じり込む.

本節ではある信号モデルの基礎からはじまり,その後の拡張と問題意識の変遷の歴史,そして最後に展望も語られていて充実の記述だった.数理モデルのおもしろさと限界,さらに現実の複雑さについていろいろと教えられることが多かったように思う.






第2章 利害が重複しているときの信号


(1)血縁個体間の信号;理論 その3