「Missing the Revolution」 第3章 男性の激情 その1


Missing The Revolution: Darwinism For Social Scientists

Missing The Revolution: Darwinism For Social Scientists


第3章はダニエル・フェスラーによる男性の暴力に関するものだ.「男性の激情:進化した心理と文化の交わりの例としての(モラルやルールに対しての)違反に対する暴力的な反応」と題されている.


ここではなぜ男性の方が暴力的なのか,なぜある個人はより暴力的なのか,なぜある社会はより暴力的なのかが主題であり,取り上げる「怒り」はヒトとヒトが体面しているときに生じる感情的なものに限定している.(冷静で計算された争いは取り上げない)
このような怒りは本性としてのヒトの心理的傾向から生まれ,文化の影響が個人の表現型として現れ,文化的なアイデアの元にもなるのだとフェスラーはいっている.


本章の構成としては進化心理学的に男性の暴力を解説した後,文化人類学的に取り上げる例を示すという形になる.


<怒りの進化と違反に対する暴力的な反応>
まずモラルやルールが破られたときの怒りとは何かを解説している.


フェスラーによるとここで問題にする「怒り」には以下のような特徴があるということになる.

  1. 突然の暴力は「怒りが感情面で表れること」を主観的に経験しているという特徴がある.
  2. 条件や連想に違いはあっても「怒り」はヒトのユニバーサルである..
  3. テーマは共通で,定義は異なっても「目的」「権利」「所有物」が犯されると怒りがわき起こる.
  4. 怒りが生じると,第3者から見て意味のないことを行う.

  (1) そもそもの被害に対して釣り合わない大きな害を与えようとする.
  (2) 加害行為にかかるコストを無視する


哲学者はこれを合理的でないとし,軽蔑した.しかし進化心理学はこれの適応的な機能を考える.

機能としては相手による将来的な加害行為を思いとどまらせるということ
このためにはより罰が大きい方が良く,将来のコストまで含めると罰を与える行為の短期的なコストは無視する方がよい.これらは祖先環境の体面的な社会では良く機能しただろう.

ここでフェスラーはロバート・フランクを引用しているがコミットメントという議論は行っていない.将来のコストで説明しようとしているが,相手がどうして思いとどまるかまで踏み込んで考えると,コミットメントをきちんと議論した方が良いところではないだろうか.コミットメントから説明すると,「自分が小さなことでも激情して法外に大きなコストを払ってでも罰を与える非合理的行動をとる人間である」と周りから理解されれば,自分に対する加害行動は加害者から見てコストが高くなる.そして自分が時に非合理的であることを周知させるには,小さな加害行動がなされたときに激情を示してコミットメントするのがよい方法だということになる.


<リスク感受性の調整>
フェスラーは将来のコストを避けるためにどこまでリスクをとるかという観点から議論を先に進める.
将来が明るければリスクはとらず,暗ければ(一か八かということで)リスクをとることがより合理的になる.これはリスクをとって失う短期的なコストの大小と言い換えることもできるだろう.では将来が明るいか暗いかはどう判断すべきか.


フェスラーは過去の経験から判断するしかないだろうという.そしてそういう文脈で幼少時にトラウマ的な経験をすると攻撃的になることが理解できるとしている.参照例として小ザルの虐待実験,DV環境,親のアルコール中毒・不在などの場合をあげている.


<性差の起源>
ここでは通常の性差の説明(ヒト:マイルドな一夫多妻,繁殖成功の分散は男の方が大きい.また男も子供に投資する.)の後,モラルやルールへの違反や加害行為からの防衛は,繁殖成功の分散の大きな男性のほうがよりペイする構造になっていると指摘している.また男性も子育てに投資することから「寝取られ」に対しての防衛が生じること,形態的にも男の方が暴力的な争いに適応していることなども論じている.そして心理傾向にも性差が生じるのだ.


フェスラーの説明はオーソドックスなものだが,特に本章で問題にしている「モラルやルールへの違反からの防衛」についてことさらに性差が生じるのかどうかについてはふれていない.「寝取られ」の部分が「ルールあるいはモラル」というならそういうことだろうが,それ以外のモラルやルールの違反に対する怒りの感情についてはどうなのだろうか.そもそもそういう部分に性差はあるのだろうか.自分の名声が関与しないとして,列に割り込まれたときに男性のほうがより女性より怒りを感じるのだろうか?ちょっと興味があるところだ.



関連書籍



本書で引用されているのはWilson & Daly, Bussなどの論文.そのほかこの本もあげられている.

The Dark Side Of Man: Tracing The Origins Of Violence (Helix Books)

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ロバート・フランクについては定番のこの本があげられている.

Passions Within Reason

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オデッセウスの鎖―適応プログラムとしての感情

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本書ではあげられていないが,男性の暴力ということでは日本語ではまずこの本だろう.

男の凶暴性はどこからきたか

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