Kluge: The Haphazard Construction of the Human Mind
- 作者: Gary Marcus
- 出版社/メーカー: Houghton Mifflin Harcourt
- 発売日: 2008/03/18
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本章はマーカスの「何故ヒトは楽しさを気にするのか」という問いかけで始まる.進化的には,それは行動をガイドするための変数だということになる.
そしてマーカスはそうだとしてもいい適応には思えないという議論を展開する.
まず役に立たない快楽があると指摘する.いわゆる「遊び」だ.テレビを見ても単に時間の無駄ではないのかというわけだ.さらに薬物中毒の問題がある.命に関わる,あるいは破滅するとわかっていてもそれを求めるというのだ.マーカスはセックスですら社会的に破滅するリスクをものともしない場合があると指摘していて,ここはちょっと面白い.
マーカスはこれは楽しさシステムがクリュージであるからだという.ここまで読んできておなじみの祖先型反射システムと熟考システムがうまく統合されていないという説明だ.
しかしマーカスは同時に「楽しさ」システムのチューンが粗くて,文明の発達がそのチューンをすり抜ける技術を進歩させたとも言っている.例として糖分を求めたり,情報を求めたり,コントロールを求めたりするシステムが文明について行けずに肥満やインターネット中毒やビデオゲームオタクを生みだすという説明だ.なおここでは男性の同性愛傾向にも触れていて,いろいろな適応説はとうてい自分が生殖することを断念するコストを正当化できないだろう,だから粗いチューンの副産物と考えた方がよいと主張している.
またマーカスはミラーの音楽能力性淘汰説をここで批判している.ミラーは音楽能力はそれを楽しいと思う心とともに適応として進化したと議論した.マーカスは音楽は祖先からの様々な能力(社会的親密さ,予測がある程度できてある程度新しいという心理への刺激,コントロールへの欲求)の上に乗っているものだと議論している.
私にとってはなかなか不満の残る説明ぶりだ.マーカスはこれが2つのシステムを統合することが適応地形の極大点にトラップされてできないのか,文明が生じてからの適応するための時間が足りなかったためなのかはっきりさせていない.
ミラー説の批判にしてもあまり説得力がある批判だとは思えないところだ.
マーカスは幸福が長続きしないこと,またどうすれば幸福になれるか予測できないこともそれがクリュージであることを示すものとして議論している.また幸福感が文脈依存であるところも指摘している.
ここはよくわからないところだ.行動のガイドとして進化したのならむしろ長続きしないのは適応として合理的だろう.予測できないこと,文脈依存であることも行動のガイドとして考えた場合に合理的であると考えることが十分できるのではないだろうか.
マーカスは進化は自覚に無関心だということは認め,しかし様々な意識的にこの「楽しさ」測定計器を出し抜こうとする試みがあることに触れている.都合のよい解釈,自己欺瞞などはこの試みだというのだ.
ここは確かに2つのシステムがコンフリクトしている気配を感じるところだ.しかし選択や信念で見たほどコンフリクトを起こしているようでもない.私としては「楽しさ」システムは十分有効な適応であって,ただ農業以降の文明にはミスマッチになっているということでほとんどを説明できるのではないかという印象だ.
マーカスは最後にティーンエイジャーが短期的な行動するがそれがだんだん収まることを持ってクリュージの証拠だと言っている.しかし(少なくともEEAにおいては)若い頃と大人では行動戦略が異なっている方が合理的だという議論は十分に成り立つだろう.本章は私にとっては納得感のない章であった.
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