Natural Security: A Darwinian Approach to a Dangerous World
- 作者: Raphael D. Sagarin,Terence Taylor
- 出版社/メーカー: Univ of California Pr
- 発売日: 2008/02/11
- メディア: ハードカバー
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第2章は本書のもう1人の編者,テレンス・テイラー Terence Taylor による「リスクと共に生きる」これも,いわばもう1つの導入章というところだ.テイラーは防衛戦略の専門家のようで,本書執筆時はミズーリ大学に在籍し,現在はthe International Institute for Strategic Studies (IISS)に所属している研究者ということだ.
本章の主題は,リスクをなくそうとしてはかえって弱くなる.リスクをマネージし,リスクと共に生きるという姿勢のほうがより適応的であり,それを人類の歴史の中に見てみようというもの.
リスクを完全になくそうとすると,変化のない安定した状態を望むようになる.しかし,敵はそれにつけ込んでくるのだとすればむしろ状況の変化に対応できるようになることが重要だという議論だ.
その例としてジャレド・ダイアモンドの2冊の本が取り上げられ,インカ帝国やグリーンランドの最初の植民の例が分析されている.
テイラーは,「ヒトの社会は複雑なので単純な適応の考え方では説明しきれない」と議論するのは誘惑的だが,しかし実際にはそれで説明できるものが多いと主張している.そして自分の選んだ例として,グローバルな経済状況に適応できずに崩壊したソヴィエト連邦や,鄧小平による路線転換前の中国共産党の行き詰まりを挙げている.結局彼等はボトムアップアプローチによる市場経済への適応ができなかったというのだ.
このあたりの例示は,テイラーの本職にかかるところであるとはいえ,かなり月並みな議論で新味はないところだ.
このあとはテイラーの現状についての認識が示される.現在の国家という体制は60年前の「グレートパワー」時代のレガシーであり,グローバルトレードやバイオテクノロジーに対応した新しい「適応」が求められるというものだ.
そして「科学」は科学的なリスク分析によってその「適応」に貢献できるだろうという.そしてテロリズムに対する対策も同じようにリスク分析が重要だとも言っている.
テイラーは個別問題として生物学的なリスクを本章で特に取り上げている.
グローバル化が進展,人口が増加している現在では,感染スピードも劇的に上昇しており,このリスク分析が特に重要になっているという認識だ.実際に2001年にアメリカが炭疽菌によるテロに直面した際にはいろいろな混乱した議論が巻き起こったらしい.
その際には大量のリソースが,特定の病原体を危険指定してそれに対する対策を立てることにつぎ込まれた.しかしそれは実際にはマジノラインのようなもので,バイオテクノロジーによって簡単に出し抜かれるだろうと指摘している.実際にそれにつぎ込まれたリソースで通常の感染症から14百万人が救えたはずにもかかわらずにだ.
テイラーは様々なリスクに対して定常的なアセスメントの必要性を指摘し,それは分業化が進んだ官僚組織にとっては非常にチャレンジングだろうともいっている.それは大きな視点から見れば,如何にテクノロジーを飼い慣らすかという問題だとも指摘している.
このあたりは,9.11直後の雰囲気の中,非常に非合理的な対策がとられたことに対する憤慨が見えるようで興味深い.政治過程とはこういうものだとわかっていてもやりきれないというところだろうか.
また別の最近のリスクとして「中国の躍進」を挙げているのがちょっと面白い.
これを脅威と見る見方が米国にあるようだ.テイラーは,このような中国の脅威論は国際関係を昔のような単純なものだという誤った仮定に上にあると指摘し,複雑なネットワークの中での分析が必要だと主張している.
複雑なシステムの中での適切な戦略策定には進化適応的なアプローチが優れているのではないかという示唆のようだ.もっともここはまだまだこれからの分野だということだろう.複雑ネットワーク論は,最近の経済危機の国際的な伝播状況を見てもなかなか興味深いところかもしれない.
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