「Natural Security」 第4章 バクテリアから信念まで その2

Natural Security: A Darwinian Approach to a Dangerous World

Natural Security: A Darwinian Approach to a Dangerous World


セキュリティの教訓を進化の自然史に見てみようというヴィラリアルの第4章.
なかなか難解なのだが,ここまでは要するに,最初の免疫はバクテリアから始まったということだ.ウィルスに寄生されたバクテリアは,その一部をDNAの中に取り込み,他クローン集団に対する攻撃(毒)として用いつつ,自分のクローン集団には自己認識の仕組みによってそれを無毒化しているということだろう.そしてその認識の仕組みとしてのグループIDはウィルス様のエージェントが感染することによって伝えられる.


さてヴィラリアルが次の取り上げるのは線虫だ.ここで進化史で初めて獲得免疫が現れる.RNAi(RNA干渉)を用いた仕組みだ.これもその起源は感染したレトロウィルスに求められるようだ.ここまでの教訓としては遺伝的パラサイトがグループIDによく関連するということだ.
ヴィラリアルは,このようなRNAiシステムは,ほかのRNAを用いた免疫,さらに神経系の発達などのアポトーシスの仕組みにも転用されたと主張している.適切な細胞にアポトーシスを生じさせるには,そのIDの認識が必要になる.そして外界からの刺激に応じてIDを変えていくのだ.アポトーシス自体は毒/抗毒システムによるミトコンドリアの破壊を通じて執行される.


進化史の次の段階では適応免疫が現れる.
これにより体内のすべての細胞について自己か非自己かが認識される.ヴィラリアルはT細胞や抗体による免疫は非常に精巧な毒/抗毒システムと考えることができると説明している.これらはIDの認識機構に記憶,そして自然淘汰の過程を持つのだ.また自己に対して間違って反応する細胞や不要な細胞はアポトーシスを用いて処理される.

この裏をかこうとする病原体は免疫細胞自体に感染しようとする.もっともよい例がHIVだ.(ヴィラリアルはAIDSについてもリサーチしているようだ)また病原体より,免疫反応がホストの危険を招く例(C型肝炎)もある.


さてヴィラリアルはこの適応免疫をセキュリティ的に見ると次のようなことがわかると示唆している.

  1. 新しいメンバーに認識IDを与えるのは非常に限られた教育期間に限定している.
  2. トラウマ的な事態が生じると記憶し,次から同じ事態に対応する.
  3. プロセスはローカルにおいて,素速く進む.
  4. 反応はあらかじめ決まっていない.
  5. リソースは必要に応じて使われる
  6. 淘汰がある
  7. 不要になれば警戒レベルが下がる.(これもローカルで進む)しかし記憶は残る.


また病原体に見られるいくつかの特性はテロリストグループにも当てはまりそうだとも指摘している.

  1. 毒性
  2. 耐性
  3. 適応レート
  4. コロナイゼーション

次の進化史からの報告は個体のグループに見られるものだ.
硬骨魚類は適応免疫と集団生活を行う成功した脊椎動物だといい,鮭の1回産卵を持ち出している.アポトーシスからの連想なのかもしれないがここはよく趣旨がわからないところだ.
続いて脊椎動物ではホルモンが配偶行動に関連していること(配偶関係というグループIDともいえる),MHC,水溶性ペプチド,ステロイドがグループメンバーの認識に効いていることを取り上げる.要するに化学的なシグナル(嗅覚,味覚)をグループIDとして用いていることを示したいようだ.(MHCがグループメンバー認識にも,免疫における自己認識の両方に関連があるのはちょっと面白い)


次は視覚,聴覚による認識だ.鳥類や霊長類での例があげられている.ヒトでは特に視覚情報が重要になっていることもふれられている.この情報による認識には新皮質が使われる.(コラムでは新皮質の活動に毒/抗毒システムが現れると議論している.中毒や痛みについて議論しているようだがちょっとよくわからない印象だ)
具体的には,顔,ジェスチャー,声が認識情報になる.さらにヒトでは言語によるID認識が生じている.著者は言語の多様性はグループID認識と関連していると示唆している.これらはインナーグループでの隠語表現がよく見られることの理由について議論されていることと同じだろう.