「Spent」第9章 6つの中心(ビッグ5と一般知性) その1

Spent: Sex, Evolution, and Consumer Behavior

Spent: Sex, Evolution, and Consumer Behavior


ミラーは前章で,ヒトが相手に伝えたがっている適応度信号は,むき出しの繁殖価値ではなく,もっと微妙な性格や好みなどのパーソナリティにかかる信号だと主張している.そのコストにかかる議論には大変興味があるが,ミラーは本章でまず,ディスプレーされようとしているパーソナリティについて説明を行っている.
ここまで本書はヒトの性淘汰シグナルにかかる本だったのだが,本章では一転してパーソナリティ心理学の講義が始まっていて,なかなか面食らうところだ.


通常進化心理学ではヒューマンユニバーサルを問題にするので,個人差に関するリサーチは当初あまり見られなかった.最近では何故このような個人差があるのかという観点から様々に取り上げられている.ここではまず,この個人差をどのような次元で分析するかというフレームワークについて説明していこうということだ.ミラーは心理学業界で100年の研究の結果,現在の主流はビッグ5と一般知性の6要素で記述しようとするものだと説明している.
これはもともと,IQに加え,膨大なアンケート結果を主成分分析して得られた5要因で,うまく安定的にパーソナリティの個人差が説明できることからポピュラーになっているものだ.ミラーはこれこそ私達がディスプレーしようとしているものだと主張している.


ミラーはここから6要因を1つずつ説明していく.無味乾燥にならないように,その特徴をディスプレーしている例として,さまざまな自動車のバンパーステッカーの文章を引いているのが面白い.



G 一般知性

IQとしても知られる.これは自動車事故,投獄,薬物中毒,性病,離婚,陪審員になること(?!)などと相関していることが知られているそうだ.陪審員になるというのは,もともとはくじ引きだから何らかの相関があるはずはないが,回避する様々なテクニックがあるそうなので,それを積極的に引き受けようとする傾向があるということだろう.日本でも裁判員に選任されることを回避することが簡単になれば何らかの傾向が現れるかもしれない.
またすべての文化において,男性から見ても女性から見ても,もっとも性的に魅力的だと考えられているそうだ.

高い知性

  • オタクのように話しかけて
  • FOXニュースの世界の中のPBSのマインド
  • うちのボーダーコリーはあなたの自慢の学生より賢いよ
  • 偶然の話をアイロニックにしないで
  • Sane, paululum linguae latinnae dico (「もちろんラテン語を話せるよ」という意味のラテン語)
  • 混迷を愛せ
  • バンパーステッカーにちょうど良いならそれは哲学じゃない.


低い知性

  • ママは僕が特別だといってくれるよ
  • Collige(カレッジのスペル間違い?)
  • テレビは本よりgooderだ.(betterを使わないのが馬鹿っぽいのだろうか?それともテレビ礼賛そのものが問題?)
  • Tongue pierthing ith thtupid (ミラーは低い知性の例としてあげているが,これはジョークとして傑作のような気がする)
  • どうしてフリスピーは近づくと大きくなるのだろう,そして僕に当たるのか


続いてミラーはビッグ5の説明に入る.これらは特にどちらかが常により魅力的になるというわけではない.相互の相性が問題になるのだ.


O オープンネス 開放性

好奇心,新奇探求性,心の広さ,文化への興味,アイデア,美的感覚などの関連する項目.ミラーの解説によると開放性は,感情安定性,社会的体制,政治的リベラリズムと関連するということだ.
開放性の高い人は,複雑で新しいものを愛し,変化や革新を受け入れ,つまらない予測可能なことよりまったく新しいものの見方を好む.平たくいうと「輝きたい」ということになるのだろう.
開放性が低い人は,単純で予測可能なものを好み,変化を嫌い,伝統をリスペクトする.保守的で慣習的で権威的だ.


ミラーは,開放性は知性と弱い相関があり,一部の精神疾患(躁鬱,弱い統合失調)とも弱い相関があると付け加えている.ビッグ5間は主成分分析要素なので互いに無相関だが,一般知性とは弱い相関があり得るというわけだ.

高い開放性

  • 現実を疑え
  • 自由を認めよ.
  • 私のカルマはあなたのドグマを超える.
  • 申し訳ありませんが,教会には行けません.魔術の稽古とレズビアンになるのに忙しくて
  • 現実はピザの配達人とともにやってくる
  • if u c4n r34d th1s u r34lly n33d t0 g37 l41d(テキスティングによるメッセージ)

低い開放性

  • 罪人よ,祝え.
  • 黙れヒッピー.
  • アメリカにようこそ,ここでは英語が使われています.学ぶか去りなさい.
  • 偏見は人生を容易にする.
  • もし本当に神が肉を食べて欲しくないなら動物を肉で作ったりしないはずだ.
  • 銃規制は両手をつかえっていう意味だ.
  • 「汝,○○なかれ」のどこが理解できないって?


C コンシャンシスネス 誠実性,勤勉性


日本語にする場合「誠実性」とする文献と「勤勉性」とする文献があってなかなかややこしい.基本は自己抑制にかかるパーソナリティだ.意志の力,信頼性,一貫性,楽しみを取っておくことができる能力と言い換えてもいい.もともとの英語のconscientiousというのは,「正しいことや,しななければならないことをしようとする」というほどの意味だから誠実性としても勤勉性としてもどちらもニュアンスが異なるようだ.
これが高い人は長期的なゴールを追求できる.約束やコミットメントを守り,衝動や悪い習慣に屈しない.行動経済学などでよく現れる時間割引の双極性などに絡むところだろう.


誠実性の高い人は計画を作るのを好み,すべてを整然とさせ,一時に1つのことに集中するのを好む.
誠実性の低い人は突然のことやカオスを好む.最適よりとりあえずの水準で良く,1つのことから別のことに興味がそれやすい.


誠実性は,当然ながら,学校への出席,宿題の完遂,時間を守る,仕事や市民の義務への協力などと相関する.また健全な食事を取り,エクササイズをし,薬物中毒にならず健康にとどまることとも相関する.


雇用主からは知性とともにもっとも望まれる要素だ.ミラーはここで,誠実性の高い人はきちんと避妊する傾向があるので現代社会では自然淘汰で不利だろうとコメントしている.


この傾向があまり強いと強迫神経症になりやすい.あまり低いと衝動に弱く刑務所暮らしをすることになる,子供の素行障害や大人の反社会行動障害,薬物中毒にもつながる.

高い誠実性

  • 電話を切れ,もう衝突してるぞ.(これはバンパーステッカーであることに注意)
  • できるからといってした方がいいわけじゃない.
  • まじめに働けばより幸福になれる.ゴールというのは締め切りのある夢だ.
  • 警察はあなたが思ってるほどそれを面白いとは思ってくれないよ.
  • 今日というのは,あなたが昨日計画した明日だよ.

低い誠実性

  • ケツに火がついていると思って今を生きろ.
  • 清潔な家とは無駄な人生の印さ.
  • いやなことで成功するより好きなことで失敗する方がましだ.
  • 土曜日に朝なんてあったっけ? 
  • 盗むように運転せよ,


アメリカのバンパーステッカーはなかなか面白い.もっとも大都会ではあまり見かけない様な気がするが(それとも私が見ていないだけ?),大学街などでは比較的多いのだろう.清潔な家を無駄と思うかどうかというのはなかなか言い得て妙なところだ.