「Spent」第12章 開放性 その3

Spent: Sex, Evolution, and Consumer Behavior

Spent: Sex, Evolution, and Consumer Behavior


開放性ディスプレーが実はメンタルヘルスミーム感染耐性ディスプレーだという説明の後,ミラーは開放性ディスプレーの危険性についての話題に移っている.感染耐性ディスプレーが正直であるためのコストは感染リスクそのものだからこれはある意味当然の結果だ.


実際に開放性は創造性と相関するが,精神病(現実との乖離)とも相関する.調べてみると開放性は一般知性と0.30の相関,統合失調性と0.29の相関,口頭設問における創造性と0.34,絵画における創造性と0.46の相関がある.一般知性も両創造性と0.35,0.29の相関がある.統合失調性は,一旦開放性を調整すると創造性と相関しない.

ミラーはこの結果を「昔からいわれているように創造性と狂気に関連があるが,それは開放性を通じてのものだ」とまとめている.
またすべてのメンタルヘルスが同様の構造にあるわけではないことにも注意が必要だとコメントしている.
まず開放性は安定性と無相関だ.そして高い開放性は精神性疾患(統合失調)と関連があり,低い安定性は神経的疾患(鬱,神経症)と関連がある.つまり高い開放性と安定性と知性の組み合わせはとても魅力的で,高い開放性と低い安定性の組み合わせは精神的に危険なのだということになる.


ここでミラーは仮説をさらに進め,開放性が特に統合失調症への耐性としてのディスプレーになっているのではないかという議論を行っている.

統合失調症は若い時期に発生するので重要だ.あなたが若い女性なら,17歳の男性と恋に落ち3人の子供を産んでから23歳になったその男が統合失調症を発症するのはまずいシナリオだ.
そして若い男性は奇妙な音楽,心をねじ曲げるような本,強烈な映画,コンピュータゲーム,などを好むことにプライドを持っている.そういうものに接しても精神がおかしくならないのがクールなのだ.年を取っても,いかにも統合失調症を誘引しそうな日常の物事のどたばた振り(飛行機がキャンセルになったりパーティがごちゃごちゃになったりするようなこと)を強調して楽しむことがある.


こう考えると娯楽産業が量産する精神病誘発的な商品を理解することができるとミラーは言う.例としてはタランティーノフィンチャーの映画,ヌーン,ラシディ,グインの小説,ベック,トリッキー,ゴライアスの音楽,デリダボードリヤールの哲学コース,アムステルダムのブラウンカフェ,などなどがあげられている.(娯楽産業の狂気じみた商品の最後には,「バンクーバーからシドニーまでの18時間ノンストップフライトのミッドローコーチクラス席」とあって笑わせてくれる.きっととてもひどい目にあったのだろう)


ミラーの解釈では,若い男性はこれらに身をさらし続けることにより,おかしなミームに取り憑かれたり狂気に陥るリスクを取り,自分の高い耐性をアピールすることにより女性にもてたり,高い地位を得る機会を得ているということになる.(ミラーはコストの例として「占星術ホメオパシーサイエントロジーなどの変なミームに取り憑かれるかもしれない.オープンマリッジに進んで離婚の憂き目にあったり,覚醒剤におぼれたりすることにもつながる.」とコメントしている)


ミラーは一般知性がいいことづくめであることに対して開放性は危険があるのだとまとめている.
しかしここはやや疑問だ.この危険の正体はハンディキャップコストだろう.結局これは正直な信号のためのコストの問題だから,知性をディスプレーするにもコストはかかるはずだ.おそらく開放性ディスプレーの場合にはコスト構造がより感染リスクに結びついているので,本来耐性のない人がディスプレーしようとしたときのダメージが大きいということなのだろう.また現代においてはそのコストがよりシビアになっているということかもしれない.