「繁栄」 マット・リドレー

繁栄――明日を切り拓くための人類10万年史(上)

繁栄――明日を切り拓くための人類10万年史(上)

繁栄――明日を切り拓くための人類10万年史(下)

繁栄――明日を切り拓くための人類10万年史(下)


私が以前書評したマット・リドレーの「The Rational Optimist 」が「繁栄:明日を切り拓くための人類10万年史」という邦題で邦訳出版された.ものやアイデアの交換こそが豊かさを産むのだというアイデアを考証しつつ,世にはびこる悲観主義をなで切りにする爽快な書物だ.また「都市や化石燃料は環境問題において悪役にされがちだが,むしろ自然環境を荒廃から救ったのだ」という主張は,読者に強烈な視点の転換を与えるもので,印象深い.


邦訳では「だから将来を不必要に憂う必要はない」という合理的楽観主義の主張を前面に出さず,むしろ人類のここまでの繁栄を考える歴史の本だという体裁になっている.ダイアモンドの本が最近また売れているようだからその隣で,また歴史書のコーナーにも置いてもらって,というマーケティングだろうか.確かにその方が売れるかもしれない.


なお今回の邦書は上下2巻.価格は合わせて3600円(税別)ということになる.
amazon.comではハードカバーで$17.81(1ドル82円で換算すると1460円)Kindle版だと$11.99(同983円)で入手できるものが日本でこうなってしまうというのは何というか大変残念だ.(Kindle版と比較すると3.6倍以上になる)
日本語の方が表意文字だからよりコンパクトにできそうなものだが,翻訳するとページ数がかなり増えてしまうというのは,(子供の頃あんなにがんばって表意文字を覚えた日本人としては)なんだかちょっと口惜しかったりする.結局判別のために文字の大きさが必要になるということなのだろうか.


原書

The Rational Optimist: How Prosperity Evolves

The Rational Optimist: How Prosperity Evolves



私の原書の書評はhttp://d.hatena.ne.jp/shorebird/20100925



関連書籍


銃・病原菌・鉄〈上巻〉―1万3000年にわたる人類史の謎

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最近よく平積みで見かけるダイアモンドの本.
進化生物学者による人類の歴史というジャンルの嚆矢とも言うべき本で,非常に面白かった.原書出版直後にニューヨークの書店で見かけて速攻で買い求め,帰りの飛行機のなかで夢中になったのを思い出す.



Guns, Germs, and Steel: The Fates of Human Societies

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同原書



文明崩壊 滅亡と存続の命運を分けるもの (上)

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文明崩壊 滅亡と存続の命運を分けるもの (下)

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「文明崩壊」テーマ的にはこちらの方が近いかもしれない.これもなかなか興味深い本だった.崩壊の事例を集めていて,「The Rational Optimist 」とは逆に「油断してはいけない」というトーンの本だ.



Collapse: How Societies Choose to Fail or Succeed

Collapse: How Societies Choose to Fail or Succeed

同原書

そういえばこれらの本も邦訳では上下2巻になってしまっている.