第4回日本人間行動進化学会参加日誌 大会初日 その2 


昼休みのあとは総会.
ここで今回北大で行ったのは,本大会の功労者の一人山岸先生が来年退官予定であったからという説明があり,山岸先生からもご挨拶があった.(もちろんなお研究者としての活躍を続けられるのだろうが,)どうもお疲れ様でした.
また来年は駒場で開催とのこと.これまで京都,福岡,神戸,札幌ときたので久しぶりの東京ということになる.



午後最初は特別講演


Neuroeconomic approach towards understanding the biological basis of human altruism Yosuke Morishima


発表者は医学教育を受け,脳神経科学がバックグラウンド.今回はヒトの利他性にかかる脳のメカニズム周りの講演.
まず利他性について簡単に触れてから,個人差が非常に大きいことを説明,これをどう扱うかということがポイントになる.

ヒトの利他傾向も入れ込んだ効用関数の形状については,経済学的にいくつかモデルがあるとして紹介される.基本は自分の利得に,自分と他人の利得差になんらかの係数をかけて,その両項を加算して表すのだが,利得差が正負で係数が単純に異なるというモデルと,補助係数をさらに設けて表記するモデルがあるようだ(数式のスライドが流れていったが,違いは単に表記なのか実質的に異なるのかはよくわからなかった)

そして経済学や心理学で行動をモデル化し,脳科学で本当に実装されているかどうかを調べ,フィードバックループになる形が理想型ではないかとコメント


先行研究ではアンフェアなオファーをどう判断し,どう拒否するかあたりは調べられていてこれらは異なる領域だとされている.しかしコストを払って利他的な行動をする際はこれまであまり調べられていないので取り組んでいるとのこと.


なお,ここでは裏話が大変面白く,MRIは再現性に難があること,データを取るには何回も試行してもらう必要があるが,人間は繰り返しやらせるときちんと集中して考えなくなるので実験デザインには工夫が必要なこと,もともと「行動の説明を経済学や心理学的に説明したくて脳科学データはつけたしでいい」と思っているリサーチャーの論文は怪しいデータでも載せる傾向があることなどに触れていた.


ここからが本題

1.利他性の個人差

独裁者ゲームで二者択一課題をやってもらう.(1010:190と730:470)
これを先ほどの効用関数に放り込んでパラメータを推定する(大まかにいってαが自分の方が利得が低い時の係数,βが高い時の係数)
するとβの方が分散が高く,αとβである程度相関している分布が現れる.


2.この個人差の脳科学的の基礎は何か

このような利他性は安定していることが知られている.すると神経活動とは考えにくく何か脳の構造的なものではないかを推測できる.
そして実際に計測してみるとTPJと呼ばれる部位の灰白質の量が有意に効いていることがわかった.
これはチャリティのドネーションを用いて追試しても現れるので確度が高いと思われる.


3.この領域の活動はどうなっているか

MRIで調べてみる.
利他的な選択が予想できる局面で判断後に血流が活性化されることが確認できた.
つまり構造にまず差があり,さらに利他行為の決断時にそこが活性化する.


4.さらに関連してコミッションの忌避についても調べてみた

暴走トロッコ問題での太った男突き落とし忌避は,コミットを避ける(コミットしていると意図があったとされその後の非難を受けるリスクが生じる)傾向が現れているのだろうと推測し,それをフレーミングを用いた独裁者ゲームで調べる.
具体的にはいったん1010という利己性の高い配分を見せてから,これを利他的な730に変えるかという設問にするとベースの判断とどう変わるかを調べる.
するともともと利他性の高い人はよりこのフレーミングに影響されることがわかった.発表者はこれを(TPJ的に)利他性の高い人は加害のコミットを避けようとするのだと解釈している.


最後に,脳科学的手法はきちんと使えば役に立つ,利他性は脳構造TPJの灰白質の量と関連する,コミットの忌避も同じところが効いている可能性がある,個人差の上に状況依存的な神経活動が乗っているのだろうとまとめていた.


最後のコミット忌避についてはよくわからなかった.そもそもトロッコ太った男問題はそういう理解でいいのだろうか?個人的にはこれはEEAにおける直接加害忌避と言うべきモラルで,1010を730に変えますかという質問にコミットするのとは微妙に異なる気もする.
また脳構造的に自分の利得が人より高いことを気にする人は加害に対するコミットを避けようとするというのは当然という気もするところだ.
いずれにせよ全体としては,キビキビとして,内容充実で,裏話も豊富な面白い発表だった.