「Risk Intelligence」 第4章 心のトリック その2 

Risk Intelligence: How to Live with Uncertainty (English Edition)

Risk Intelligence: How to Live with Uncertainty (English Edition)


ヒューリスティックスとそれによるバイアスによるRQ低下.次はコンファーメイションバイアス.


<コンファーメイションバイアス>


ヒトはまず結論に飛びつき,その後自分の信念を支持する証拠だけを探し,反する証拠を無視する傾向がある.イラク大量破壊兵器保有を信じてしまったにのは,証拠の正しさと信頼性の混同バイアスに加えてこの確証バイアスも効いている.エヴァンズはこれはRQの最大の敵だと指摘している.これは基本的には自信過剰傾向を引き起こすメカニズムの1つということになるのだろう.


バイアスの存在についてはウェイソンのリサーチを紹介している.

  • 学生に(2,4,6)などの数列のシリーズを見せて,その生成規則を推測させる.
  • そして,それを確かめるために数列をいくつか作ってみるように推奨される.リサーチャーはその数列が正しいかどうかだけ答える.これにより確信ができれば「結論を得た」と宣言する.
  • これで正解にたどり着けた学生はわずか1/5だった.
  • 何が生じたのか,学生は「最初の数字に2づつ加える」という規則を考え,それを確証するために(8,10,12)などの規則に適合した数列だけをテストして,確信してしまう.(5,6,7)(2,8,9)などを試そうとはしないのだ.しかしそれをしなければ「単なる増加数列」という正解にはたどり着けない.


もうひとつコリアットのリサーチも紹介されている.

  • 「サビーネは古代ローマの地名である」「サビーネは古代インドの地名である」のどちらが正しいかを選ばせ,それの主観的正解確率を答えさせる.
  • 同じタスクを,それぞれの命題について支持根拠と反する根拠を2×2の表形式にして,そのすべての項目について書き出させた後に答えさせる.
  • 双方を比べると後者の方がRQが高くなる.

このバイアスを克服するには,意識的に反対の証拠を探すようにすることが重要なのだ.エヴァンズは自分の経験を紹介している.

  • ネットの時代には実はこれは難しくなっている.検索エンジンやニュースサイトはカスタマイズしてフィルターをかける.すると自分と同質な意見ばかり目にするようになる.
  • 実際に先ほどのイラク大量破壊兵器についてついて調べたときには知らず知らずのうちにリベラルの意見ばかり目にしていたことに気づいた.そこで意識的に保守派のソースにも当たってみた.すると確かに自分の意見にも偏りがあることがわかった.
  • 保守派のトークラジオは,リベラル派が茶化すフレーズしか知らなかったが,実際に通して聞いてみると.一部はインテレクチュアルで,楽しいものであることがわかった.
  • (リベラルの)友人はこのような私の態度にいきり立った.「ラムズフェルドの自伝を信じるとは馬鹿げている」「もちろんそうだ.しかしすべてを無視すべきでもないんだ」

<ハインドサイトの危険>


ヒトは時に確証バイアスを乗り越えて信念を変えることがある.しかし一旦信念を形成すると,過去から一貫してそう考えていたと信じてしまう傾向が現れる.これを後知恵バイアスと呼ぶ.これは自分の間違いから学習する機会を奪ってしまう.これも自信過剰を強化するメカニズムの1つということだろう.


エヴァンズはここでは友人が野球場で出会ったウザイ観客の例を紹介している.友人のすぐ後ろの席に陣取ったそいつはすべてのプレイについて「バッターが三振するのは打席に入る仕草でわかっていたさ」「ピッチャーがストライクをとれないことは知っていたぜ」「ここでこのプレイだが来るのは明らかだった」などと大声で周囲に聞こえるように叫ぶのだ.友人はトリプルプレイを予知していたと言い張られてついに振り向き,「いいから次に何が起こるか先に教えてくれ,そしてもしそれが外れたらその後はゲームが終わるまで黙っていてくれないか」と言ったそうだ.


エヴァンズは続いてやはりいくつかのリサーチ例を示している.
ベンチャービジネス創始者に立ち上げ前に成功確率を聞いておいて,しばらくして失敗した後に自分たちの成功確率をどう見ていたかをもう一度聞く.予想成功確率は80%から50%に落ちるそうだ.


またこのバイアスは自分の失敗例を忘却してしまうという現象で現れる.またなんとか憶えていてもそこから学習するチャンスは減らしてしまう.これは「確かに私は間違っていた.でも・・・」という形になるのが典型例だそうだ.
エヴァンズはブッシュ大統領が2004年に記者会見で「あなたの大統領になってからの最大の誤りは何ですか?それに何を学びましたか」と聞かれたときの回答を紹介している

その質問は事前に教えてもらっていたらもっと準備できたんだが.・・・あー,ジョン,きっと歴史家は何か言ってくれるだろう,うん,きっと上手く何か書くだろう,・・あー,えーと,確かに私の頭には今この会見場で何かが浮かんでいるんだが・・・一生懸命思い起こそうとしてるんだが,まだ・・・えーと,・・私は自分が間違いを起こしていないと言ってると勘違いして欲しくはないんだ.確かに何か間違った.あなたはここで今というんだが,本来そうすべきようにはなかなかすぐには浮かばないんだ.・・


エヴァンズはこうなりたくなかったら次のジョブインタビュー*1にはちゃんと準備しておいた方がいいよとアドバイスしている.確かにとっさにはなかなかでてこないかもしれない.またこのバイアスから逃れるために,自分の予想を書き留めておくことを勧めている.


関連書籍


このバイアスについて書かれた本だそうだ.

Being Wrong: Adventures in the Margin of Error

Being Wrong: Adventures in the Margin of Error




 

*1:「今までに自分がした失敗は何か」というのはアメリカでも定番の質問だそうだ.