日本進化学会2014 参加日誌 その3 


大会第二日 午後


午後一は一般口頭発表から


コモンサンゴにおける赤色蛍光タンパク質遺伝子の多様化 高橋志帆


浅海に生息するサンゴには蛍光を発するものが知られている.これは蛍光タンパクよるもので,緑のGFPと赤のRFPがある.コモンサンゴ属のサンゴについてこの遺伝子を解析してみるとRFPがごく最近に大きく分岐していることがわかった.重複とスプライシングの変化によって多様化しており,何らかの機能があることを強く示唆している.これは共生褐虫藻の光合成の効率を上げるための波長変換適応の可能性がある.


トンボの色覚に関わるオプシン遺伝子の極端な多様性 二橋亮


トンボの色彩は近縁種間でも多様であることが知られている.これが相手に対する何らかのシグナルであるとすると,受け手である視覚系も多様化している可能性がある.ここでトンボの視覚を見ると,複眼が巨大で,背側と腹側で大きく分画されており,視覚依存型の生物であることがわかる.オプシンを調べると長波長側で非常に多様なオプシンがあることがわかった.背側と腹側,トンボの種類によって発現するオプシンの種類は異なっており,幼虫時と成虫時でも異なる.背側と腹側では敏感な波長が異なるのは光線を上から受けることによる適応,幼虫時と成虫時で異なるのは水中と空中という生息環境の差に対する適応であると思われる.


グッピーにおいて光環境がオプシン遺伝子の発現量の変化におよぼす影響 酒井祐輔


グッピーはオスが多彩な婚姻色を持ち,性淘汰シグナルであると考えられている.視覚側を見ると9つのオプシンを持ち,個体間で発現量が異なっている.実験を行って調べると光環境に応じて発現が調整されていることがわかった.


午前の最後から視覚や光に関する遺伝子の話が連続して聴けてなかなか面白かった.2時過ぎに発表は一旦終了しポスター発表のコアタイムとなった.面白かったものをいくつか紹介しよう.


ポスター発表


テントウムシの栄養卵とオス殺しの数理モデル 大野ゆかり


テントウムシは産卵の一部を栄養卵として孵化直後の幼虫に与える.ここでオス殺し細菌に寄生された場合,殺された卵は栄養卵と同じになり,テントウムシはこの状況に応じて栄養卵を減らすことが期待できる.実際にクサキリテントウでは感染すると栄養卵割合を減少させクラッチサイズを増加させる.そこで数理モデルを立てて見ると一定パラメーター内では栄養卵はゼロになるはずだ.しかし実際にはゼロは観察できなかったというもの.
解釈はなかなか微妙だが,より深い現象が奥にありそうな予感を感じさせて面白い.


植物による過剰な花生産の適応的意義 江副日出夫


植物の過剰な花生産についての数理モデルを立てて解析したところ,密度調節適応であるという仮説は成り立たず,種子捕食者の種子の捕食率を下げる適応であるという仮説は成り立ちうることがわかったというもの.


夜行性と昼行性のスズメガ種間におけるオプシン遺伝子の比較解析 秋山辰穂


オオスカシバの夜行性のものと昼行性のもので,光環境からの予測通りのオプシンの非同義置換率の違いがあったというもの.


絶対送粉共生系における花の匂いの性的ニ型とその選好性に関する共進化モデル 寺澤明仁


カンコノキとハナホソガは絶対共生系をなしていて,ハナホソガは受粉と種子結実が(そこに産卵するため)自らの利益にもなる.このような状況下,カンコノキは雄花と雌花で匂いを変えてハナホソガの受粉効率向上を促していることがわかったというもの.
相利共生系では予想されることだが,やはりここまで適応が生じているというのは面白い.


イカ類の消化器官の機能形態学的研究 大村文乃


遊泳性のイカと底生性のイカで胃の構造が異なってそれぞれの行動特性や食性に応じた適応をなしている.遊泳性のイカは胃が小さく盲嚢が大きいが,底生性のイカは胃が盲嚢と同じくらい大きい.これは底生性のイカは胃において消化しにくい餌を最小化しているためと思われるというもの.
徹底的に解剖しそれを定量的に分析するという伝統的な手法が楽しい発表だった.



プレナリーシンポジウム Experimental Evolution (実験室内進化)


4時過ぎからはプレナリーシンポジウム.コンサート開催可能な劇場中ホールにて開かれた.今年は実験進化がテーマになる.



“An experimental evolution approach to the emergence of plant RNA viruses” Santiago F. Elena


タバコモザイクウィルスを用いて,ジェネラリスト感染者に進化させたり,スペシャリストに進化させたりすることができるという講演.ホストに対するコスト,トランスクリプトームへの影響などに焦点が当てられていた.


"Examining adaptation in experimentally evolved bacterial populations" Tim Cooper


レンスキたちによる有名な大腸菌進化実験の系統に属するリサーチの講演.
テーマは,グールドの「進化のテープを巻き戻せば全く異なる生態系になる」というのはどこまで真実かというもの.大腸菌の実験系では何度でも巻き戻し実験が可能になるように設計されているのでこれが観察可能になる.いくつかの突然変異は経路依存的な傾向を示し,evolvabilityとも解釈できるというもの.詳細が非常に面白い講演だった.


"Darwinian evolution in a translation-coupled RNA replication system within a cell-like compartment" Tetsuya Yomo


細胞の起源あたりについての進化実験.皮質の膜を作り,その中にRNAなどを入れ込んで,振動によって分裂させていくもの.様々な条件を調整することでかなり細胞類似の振る舞いを再現できる.
このあたりについてはあまり知識のない領域だったの興味深く聞くことができた.



以上で二日目は終了だ.京都に戻って創作和食のお店へ.これはイチジクの天ぷら.