日本進化学会2016 参加日誌 その6


大会第三日 午後


午後の13時から15時20分まではポスター発表タイム.

ポスター発表


今年は生態分野の発表が少なく残念だった.二つほど面白かったものを紹介しよう.

ヒラタシデムシにおける配偶者選択のメカニズム 菅野宗嗣

ヒラタシデムシにはクーリッジ効果が認められる.これは交尾したメスにマーキングすること,自分のマーキングしたメスには関心を減らすが,ほかのオスのマーキングには反応しないことから,個体限定的マーキングにより可能になっていると考えられる.クーリッジ効果の認められない近縁2種で比較すると,生態要因としては飛翔するかしないか(分散能力の大きさ),精子掻き出し行動があるかがあるようだというもの.
コンパクトできれいな解釈だ.

哺乳類・鳥類の飛翔能力獲得・喪失に伴う最大寿命の進化的変化に関わる遺伝子の検出 池本篤史

哺乳類と鳥類という恒温性脊椎動物で調べると,飛翔能力と寿命に相関があり,飛翔する動物(多くの鳥,コウモリ)では寿命が延びている.これについてどのような遺伝子が関連しているかを調べてみたもの.あまりデータが多くなくてそれほど多く拾い出せなかったが,一つエネルギー消費量に関係する遺伝子が見つかったというもの.
予備的なリサーチとして面白いと思う.

総会

来年は京都(8月24日〜26日),再来年は駒場(時期未定)での開催がアナウンスされた

進化学会賞受賞講演

本年の日本進化学会賞の受賞者は長谷川光泰.自身の研究歴を振り返った楽しい講演だった.

植物進化研究の面白さ 長谷川光泰
  • 人生楽しんだもの勝ちだと思っていろいろな植物を研究してきた.
  • 植物にも一般性と多様性がある.若い頃からいろいろな植物採集をしていたが,その後図鑑を見て同定することになる.ここで図鑑によって違うことが書いてあることに気づいた.
  • リサーチを始めた頃は東大小石川の岩槻研究室に所属していたが,当時はDNA分子系統が勃興している時期だった.そこでこれを植物でもやろうとして取り組んだ.研究室の先輩方は否定的だったが,指導教官の岩槻先生は何でも楽しんだらいいというスタンスで認めてもらった.被子植物のところは欧米で競争が激しかったので,コケシダ裸子植物あたりのところに取り組むことにして,世界中に採集旅行に出かけた.そしていろいろな成果を出せた,グネツム類の位置(それまで被子植物と近縁と考えられていたが,針葉樹に近いことがわかった),コケ類の系統関係などだ.
  • 一旦大きな系統関係がわかったところで,では分岐点では何か起こったのかに興味が向かい,進化発生学に足を踏み入れた.遺伝子と花の形をリサーチし,形に大きく影響を与える遺伝子を見つけたり,遺伝子重複で様々な部位(花弁,萼,おしべ,めしべ)の形ができていることを突きとめたりした.またモデル植物としてヒメツリカネゴケの解析も進めた.
  • ここで動物と植物の違いについて:動物では細胞分裂時の微小管,中心体,紡錘体のメカニズムがあり発生システムの拘束が強いが,植物には中心体がないので事情が異なっている可能性がある.
  • そこでコケ類と被子植物での違いを調べてみる.すると被子植物でより特異的な発生遺伝子発現が多いことがわかった.これには倍数体になりやすいこと,自家和合が可能なことが関係していると思われる.陸上植物の器官レベルでの発生メカニズムは多様であるのだ.ただし細胞レベルでは共通要素が多い.(オーキシン,ジベレリン,VNS転写)
  • 器官はばらばらでも細胞レベルでは似ている.では細胞レベルでは何が生じているのか.植物の特徴として生活史が複雑なことが上げられる.N世代,2N世代それぞれで幹細胞が出現し,生活史の別のステージで幹細胞と非幹細胞間で転換が生じる.これらにおいて共通のメカニズムが働き,それは変化に対して強い拘束になるのだと考えられる.もう一つ植物の形を決めるメカニズムとして分裂軸の制御がある.どの方向に分裂するかで形が変わってくる.これも広く使われるシステムであり,拘束になりやすいだろう.
  • では多様性はどのように生まれるのか.ここで食虫植物のサラセニアをの葉の複雑な形の形成をよく調べると分裂軸の変更により高次形態を作っていることがわかった.
  • さらに食虫植物についてはいろいろ調べている.モウセンゴケのゲノムを調べて消化酵素の起源(元々カビに対する耐性として持っていたものが転用されている)を探っている.ハエトリソウについてはどの部分が祖先型対のどの部分と相同なのかが興味深い.さらに動きのある植物関連でオジギソウについても最近調べている.
  • 分類,分子系統からリサーチを始めたわけだが,図鑑についても進化の概念を入れた良いものができないか考えているし,面白い問題は周りにいくらでもある.今はゲノムも簡単に読める.これからもいろいろ調べていきたい.

前向きで楽しい講演だった.

というわけで大会第3日目も終了である.