Language, Cognition, and Human Nature 第7論文 「ヒトの概念の性質」 その8

Language, Cognition, and Human Nature: Selected Articles

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英語の不規則過去形はファミリー類似カテゴリーだった.では規則過去形はどうなのか.ピンカーはまず規則型には不規則型の特徴である音韻類似性がないことを見た.続いてそれ以外のファミリー類似カテゴリー特性があるかどうかを吟味する.

(2)プロトタイプなし,メンバーシップの段階性なし.低頻度や限定的文脈による不確実なケースなし
  • 不規則動詞の過去形とは異なり,規則動詞の過去形は出現頻度,熟知度,慣用度,凍結性,統語的文脈に応じたまとまりのある特徴を示さない.例えばperambulate(ぶらつく)という動詞は出現頻度が低いが,その規則過去形はなんら不自然に聞こえない.動詞はゼロ頻度でもその規則過去形は完全に自然に聞こえる.(人工語を用いたリサーチが紹介される)
  • これまた不規則動詞と異なり,規則動詞は,凍結したり制限のある表現の中に閉じ込められたときにも不自然にならずに過去形をとれる.例えば動詞ekeは「eke out a living」(何とか生計をたてる)以外の用法ではほとんど用いられないが,「?forwent the pleasure」と異なり「eked out a living」は完全に自然な表現になる.同じようにほとんどcan’tとともに用いられる動詞でも「?I don’t know how she stood him.」と異なり「I don’t know how she afforded it.」は完全に自然だ.(似たような例として,crook one’s finger, stint no effort, broach 〜 to someone, augur wellなどがある)
  • 前節と本節で議論した現象は,「規則動詞の過去形の受容度が不規則動詞のような段階制を示さない理由は,ブロッキング原則のためであり,規則動詞に特有な性質のためではないこと」をよく示している.不規則型動詞の段階制は,頻度と似たような不規則動詞のサブクラス性によっている.しかし規則動詞は音韻や頻度に依存する受容性地形はない.すべて同じように受容可能なのだ.
(3)デフォルト構造
  • これまで見てきたように,規則過去形変形は,語幹の音韻特徴,動詞のルートなのか非動詞のルートなのか,頻度,熟知度,文脈にかかわらず適用できる.これは規則動詞が「デフォルト」クラスであることを示している.規則動詞カテゴリーには特有の特徴はないのだ.それは規則ルールの適用スコープにともなう反射的な現象に過ぎないのだ.

規則クラスについての結論

  • これらの現象は以下の結論を導く.
  • 英語の規則動詞のクラスは古典的カテゴリーである.
  • その必要条件,十分条件は,単純に英語文法の規則ルールの適用条件に過ぎない.それらのメンバーシップの条件は単純に示すことができる:そのメンバーは動詞でなければならない,そしてその動詞は不規則ルートを持たない.


これがピンカーの英語の規則系動詞のカテゴリーについての結論になる.不規則動詞とは異なり,規則動詞は古典的カテゴリーになるのだ.とはいえ,「全集合から特定のファミリー類似カテゴリーメンバーを除いたもの」という定義の仕方が本当に古典的カテゴリーなのかというところは何となく釈然としない部分もないわけではない.
とはいえここでピンカーが言おうとしていることは明解だ.ヒトが英語の規則動詞と不規則動詞をカテゴライズする心理過程は全く異なっているということだ.私たちの「概念」の様相は一種類ではないということだ.