「サッカーマティクス」

サッカーマティクス?数学が解明する強豪チーム「勝利の方程式」?

サッカーマティクス?数学が解明する強豪チーム「勝利の方程式」?


本書は熱烈なサッカーファンである英国人数学者のデイヴィッド・サンプターによるサッカー周りの様々な数学話を集めた書物だ.「マネー・ボール」のようなサッカー選手の能力数値化の話から始まり,戦術の数理的な解析,さらにはサッカー賭博の賭け方まで幅広い.私としてはスポーツにおけるデータ利用についてはなかなか興味深いテーマだと思っていて,野球を題材にした「マネー・ボール」,「ビッグデータ・ベースボール」はそれぞれ大変面白い本だという感想を持っている.しかしサッカーについての「サッカーデータ革命」は一部もどかしい記述があってもやもやしていたところだったので,この本も手にしてみたところだ.原題は「Soccermatics」,もちろんSoccerとMathmaticsをあわせた造語である.


本書はサンプターが日本語版への序言も寄せてくれている.日本で人気のある野球は個人の個々の数字が重要なデータとなる基本的に相加的な側面が強いスポーツだが,サッカーはチームワークが重要な非相加的な要素が強いスポーツであり,そして戦術面では何よりパターンが重要なのだと宣言される.また2015シーズンのドルトムント香川真司のパスパターン,2015シーズンのレスター・シティの快進撃における戦術*1岡崎慎司の役割などが解説されている.なかなかファンにはうれしいサービスだろう.またここでは生物学への数理的な応用研究を日本人研究者と取り組んだことも紹介されている.サンプターは動物の運動や行動に関するリサーチャーでもあるのだ.


序言(キックオフと表記されている)では,プロチームのスカウトが若いサッカー選手に求める最優先事項は「知性(特に空間把握能力)」であること,そしてそこには応用数学の出番があり,本書の目的は読者の数学観とサッカー観の両方を一変させることだと宣言されている.

パート1 ピッチから

第1章 数学でサッカーの試合結果を予測できるか

まずは導入編だ.サンプターはゴール数の分布から始める.これはポワソン分布に近く,ゴールはランダムで確率的な現象であることがわかる.するとサッカーの試合結果の予測は各チームのゴール確率からシミュレーション的に導くことができることになる.数学導入の肩慣らしといったところだろう.

第2章 バルセロナと粘菌の隠れた共通点

ここでいよいよパターンの話にはいってくる.ランダムを超える分析をするには分析対象の構造を知らなければならない.サッカーの戦術の理解にはそのパターンの理解が重要になる.
最初はフォーメーション.ここではまず各選手のポジション位置を結ぶ最短経路問題から始まる.これは平面をいかにうまく分割充填するかという問題であり,美しい解法は分岐点の角度が大きいものになる.そしてこれは2010年のバルセロナのフォーメーションに見ることができる.彼らのゾーン・マップとパス・ネットワークはいずれも美しい対称性を持つ.サンプターはここからシャビ,イニエスタ,メッシがどのように動きながら動的なゾーンを作りだし,パスを回してチャンスを作るかを,そしてその個々の動きは(ピッチのすべてを理解することではなく)局所的な情報に基づいたいくつかの単純ルールによって可能になることを魚の群の動きを例にとって解説している.

第3章 パスの「流れ」を解明する

次はパスの理解だ.初心者の子供のゲームがボールに群がるお団子状になること,そうならないためには各プレーヤーの構造の理解が重要だとまず説く.
次は限られた平面,限られたプレーヤー間でパスを行う際のアタッカーとディフェンダーの力学が解説される.2:1で正方形の鳥かご練習をする場合,ディフェンダーが正しい動きをするとディフェンスの必勝になる.しかし3:1になるとパス回しが可能になる.そこでのポイントは.単に正確なパスを出すだけでなく,相手の動きを観察して動的な三角形を作ることになる.
これを実際に応用するには流れ場分析(ディフェンダーの取るべき位置を現在の位置からのベクトルで表すもの),走行データ,パスデータの集積と表示,そして多数の選手の相互作用の解析が必要になる.

相互作用の解析は,まず群集が行き交うときに個人個人が右によけるか左によけるかという分析の例から引かれている.個人個人はほぼランダムに左右によけるが,国(文化)によりわずかなバイアスがあり,群集になると顕著な差が生じる.
行き交う群集は互いに避けようとするが,サッカーの場合,アタッカーは避けようと,ディフェンダーをぶつかろうとする.1:1ではこの勝負はディフェンダーに分がある*2ディフェンダーはトリッキーな足の動きに惑わされずにボールをよく見て,素早く近づき相手にスペースを与えないようにすればよい*3.これを応用した守備アルゴリズムが開発されていて,一定の前提の元ではこのゾーン最小化アルゴリズムが守備側の必勝戦術になることが証明されている.

サンプターはいずれ各選手の動きの特徴(どのようなアルゴリズムに従っているか)が分析できるようになるだろうという.現在はそこまではいっていないが,実際の動きを流れ場表示して個々の選手の特徴を見ることは可能になっている.ここではイタリアのピルロとドイツのシュヴァインシュタイガーの分析結果が比較されて解説されている.大きく異なるパターンがわかりやすく図示されていて興味深い.サッカーファンには堪えられないところだろう.

第4章 統計だけが知っている選手の本当のすごさ

次は選手の評価だ.サンプターはまず,ロナウドとメッシのどちらがすごいかという話題から始め,シーズン最多ゴール数という記録をどう評価すべきかという問題を採り上げ,「極値分布」からの評価を説明する.
そしてボルトの陸上競技の記録のすごさ(トレンドラインからの大幅な乖離)とその解釈(ボルトは本当の例外で第2のボルトは相当先にならないと現れないという可能性ももちろんあるが,あるいはそれまでの常識を覆した選手だったということで数年後には似たような体格とランニングスタイルの選手がわらわらと現れるという可能性もある)にふれたあと,メッシとロナウドに戻る.この二人のゴールラッシュはあるいは戦術の常識の転換によるものかもしれないとサンプターは示唆している.

次は選手のランキングシステムは作れるかという話題になる.プレミアリーグではそのウェブサイトに毎週のパフォーマンス・インデックス,そしてその累計ランキングが発表されている.これは選手やファンの評価に近いとされている.これはどういう仕組みになっているのだろうか*4
このランキングのプロトタイプは統計学者が選手の行動がどのように(自軍及び相手の)ゴールに結びつくかを示す統計モデルだった.その結果は上位にゴールキーパーディフェンダーがずらりと並ぶものだった.これはスポンサーの意向にあわず,結局勝利,ゴール数,成功率,アシストなどのポイントを加味した改訂版のインデックスが作られたそうだ.


この逸話はなかなか示唆的だ.サンプターはそう明言していないが,おそらく本当に勝利に対する貢献が大きいのはゴールキーパーディフェンダー(の能力差)なのだろう.だからサッカーがサラリーキャップ制になれば,マイケル・ルイスが「ブラインド・サイド」で描写しているように,これらのポジションの名選手のサラリーは大きく跳ね上がることが予想される.


ではこのようなインデックスを用いてマネーボールのようなことができるのか.サンプターは「サッカーデータ革命」における「サッカーにおいては戦力は相加的な性質を持たないので,チームの最も弱い部分を補強すべきだ」という結論に賛成し,単純なランキングの利用について否定的だ.*5
とはいえデータ分析によるチーム編成は(特に予算の限られたクラブでは)時代の流れになりつつある.ここではまずデータ分析でチームに合いそうな選手を選抜し,それから実際に見て話をするケース,キックのスピンを分析してプレースキッカーをトレーニングしているケースが紹介されている.

第5章 イブラヒモビッチのロケット科学

サンプターは冒頭でズラタン・イブラヒモビッチの奇跡的な25メーターのオーバーヘッド・ロブ・シュートを採り上げ,ボールの軌跡の力学を解説する.まずは空気抵抗のない単純なニュートン力学からの説明からはじめ,空気抵抗があるケースに進む.そこからボールの回転,ナックル効果,ボールの種類(ジャブラニとズブラーカの違いなど)の影響が加わり,なかなか蘊蓄が楽しい.

パート2 ベンチから

第6章 サッカーを劇的に面白くした勝ち点3の魔法

ここでは勝ち点を2から3に変更したことが,戦術面でどのような影響をあたえたのかが解説されている.「サッカーデータ革命」ではあまり影響がなかったような記述もあったこともあり興味深いところだ.

ここではサンプターはゲーム理論を用いて各監督のインセンティブを評価することによって分析している.監督が勝ち点の期待値最大化を目指して(攻撃的あるいは守備的)戦術を選択するとすると,各戦術を採ったときの勝敗及び引き分け確率をどう予想するかによって選択が異なってくる.
そして基本的な力学は,勝ち点2だとタカハトゲームのようになり,強いチームは攻撃,弱いチームは防御に傾きやすいが,勝ち点3だと,弱いチームでも攻撃的になるべき予想勝率閾値が下がり,互いに攻撃的になって勝ち点3をねらう形になりやすいことが解説されている.
では勝ち点3を導入しても引き分け試合が減らなかったというデータはどうなるのか.サンプターはそれはその前年のアノマリーがあるのであって,前後5年ずつのデータを取れば引き分け試合は減っていると答えている.

最後にサンプターは「では監督は勝率を予想し,ゲーム理論に従って期待値を計算して戦術を選んでいるのか」といういかにも進化生物学者が常々投げかけられている問題に答えていてちょっと面白い.サンプターの答えは,「全然計算していなくとも,成績の悪い監督が解任されるという自然淘汰のような過程によってこのような条件付きの戦術を採る監督が多く残っていくだろう」という(いかにも進化生物学的な)ものだ.

第7章 戦術マップが暴くチームの個性

ここではチームの戦術をグラフ化してみせるというテーマが扱われている.本書の最も面白いところだろう.冒頭のユーロ2012のイタリアチームとイングランドチームのパスネットワーク図の違いはいかにもチームの個性をあぶり出しているようで面白い.ネットワーク図からさらにパス率,ネットワークの中心性を加えて分析し,戦術の有効性をみる.すると全員でまんべんなくパスを回すチームのゴール確率が高いことが明らかになる.その代表が同じくユーロ2012のスペインチームになる.


ここでは2014/15チャンピオンズリーグの準決勝以上の試合が詳細に振り返られていて読み応えがある.まずエリアごとのパスを出した方向と長さのパターン図でピッチのどこを使ってどのようにパスを回しているかが見る.ここで用いられているのはバイエルンユヴェントスのデータになる.さらにパスをどこで受けてどこで出したかを示すゾーン・パス・ネットワーク図でバルセロナの芸術的なパス回しが,シュートの打った位置と成功不成功を示す図をあわせてマドリードロナウドの持つ一瞬でチャンスを作るポテンシャルが,そして守備的な行動を示す図によりマドリードユヴェントスのディフェンスシステムの違いが解説されている.
本章の記述はなかなか深くて,しかしパターンの本質を切り取った見事な図示的表現によりわかりやすい.ユーロサッカーファンにとっては非常に興味深い解説になっていると思われる.

第8章 部分の総和を上回る超チーム力

ここでは監督がいかに選手にチームプレーをするインセンティブを与えることができるかというマネジメントが扱われる.サンプターはタカハトゲーム的な利得を持つ怠け者と働き者ゲームを示し,この(特定ペイオフ行列の)場合には怠け者が多数派で平衡になるということを進化ゲーム的に説明する.そこからその平衡を越えて協力が進化する道筋を血縁淘汰とハミルトン則で解説し,地元球団の地元サッカー愛が疑似家族的な感情で支えられる血縁淘汰的なものであることをほのめかす.ESS的なハト戦略の存在とハミルトン則を無理矢理連続させていて,協力の進化についてあまりいい例だとは思えないが,まあ蘊蓄を語ったちょっと面白い導入ということなのだろう.


ここから名監督のマネジメント術が解説される.サンプターはプレーヤーが自発的に協力する(つまりそういうペイオフを作り出す)ためには選手の努力の総和に対して超線形的に効果が増加するような状況を作り出すことが重要だと指摘する.そして特にスーパースターのインセンティブが協力に傾くように強い非線形構造を作ることが重要になる.(ただしこれは逆に向かうと大崩れしやすい構造でもある)*6さらにある努力量に対して2種類の効果曲線があるような状況では,その2曲線間での上方へのジャンプが重要になる.これがリーダーシップの重要性につながるとサンプターは力説している.ちょっと数理的に理屈倒れ風になっている気もするが,理論的にはなかなか面白いところだ.


では監督はどうやって非線形状況を作り出すのか.チームが連携に依存するような戦術を採るのは一つの方法になる.70年代から80年代にオランダで発展した「トータル・フットボール」はまさにこの非線形構造を作るものだったとサンプターは指摘している.1988年の欧州選手権のオランダチームの優勝をこのトータルフットボールの勝利として描いていてなかなか熱いところだ.

第9章 「動き」の世界を数学する

この章では個別プレーヤーの動きが解析される.動物の動きを研究テーマにしてきたサンプターにとっては最も得意な部分ということになるだろう.
現在の技術だと個別のプレーヤーの位置と運動方向をゲームを通してすべて記録できる.問題はこの膨大なデータをどう生かすかだ.これはまさにこれから進展する分野ということになる.ここからは現在進行中のいろいろな分析が次々に紹介される.
まず各ポジションの選手の平均位置,そこからはフォーメーションごとのゴール確率の分析(予備的な分析ではカウンターアタックの効率がいいようだ)につながる.
そして最大の課題は選手の動き,そしてその相互作用が生み出す効果の分析だ.選手の同調度合いを見ると,攻撃よりも守備(ディフェンスとセンターミッドフィールド)の選手の同調が高いことがわかる*7.そしてこの同調度はスケジュール的に余裕がある方が高くなる.ではプレーヤーはどのように同調を保っているのだろうか.これは動物の群の動きと同じ分析になり,サンプターのリサーチエリアとなる.ここでは周りのプレーヤーの動きに合わせることによりそれが可能になることが丁寧に説明されている.そして微妙なのは誰かがリーダーとなる必要があり,さらに同調能力には個人差があることだ.ここから応用としてプレッシング戦術の分析がなされている.相手のパスルートの有効性の分析を絡めてカウンタープレスとディーププレスの考え方の差*8などが解説されている.ここはなかなか深くてサッカーファンには堪えられないところだろう.

パート3 観客席から

第10章 君は1人じゃない − 群衆の科学

ここでは観客席で生じる集団現象が扱われている.私はよく知らないが,英国のサッカーでは観客が一斉に歌い出す「チャント」が名物なのだそうだ.サンプターはそのような群衆行動の広がりと収束のモデルを拍手を例に説明している.また(選手の移籍話などの)噂の伝播やウェーブの動態*9,さらにロックコンサートのモッシュ,スタジアムでのパニックについても解説がある.

第11章 みんなの意見は本当に正しい?

第11章から第13章はサッカーくじで儲ける方法について.

冒頭で大勢の意見の平均がかなり正しいという主張を採り上げ,いろいろ料理*10した後で,サッカーのオッズはこの平均的な意見を反映しているので胴元の取り分を越えて出し抜くことが至難の業であることが説明される.予想については,過去成績からの統計的なモデルを使った推論もあまり当たらないし,また専門家の予想が全然頼れるものでないこともいろいろなデータを使って解説がある.

第12章 自腹でブックメーカーに挑んでみた

ここでサンプターは話を面白くするために本書のアドバンス(前渡し金)を使って実際にサッカー賭博に挑戦する.
多数のブックメーカーの中から最も有利なところに賭けて胴元手数料を最小化する仕組みを構築し,「大本命の勝ち,互角チームの引き分け」狙い(いわゆる本命狙い;穴に賭ける人が多いので本命側に期待値アノマリーがあることに賭けるもの),ユーロ・クラブ・インデックスを信用して期待値最大化に賭けるモデル,同じく(ボール支配率,パス率などの)パフォーマンス指標に従い期待値最大化に賭けるモデル,ここまでいい予測をしてきた評論家の予測にベットするという4つの戦略を使って実際に賭けることにする.結構熱心にモデル構築を行っているので,なかなか読んでいて楽しいところだ.(なお戦略ごとの重み付けにもケリー基準を使ったモデルを作っていることが13章で解説されている)

第13章 挑戦の結果はいかに

ここでは実際の賭の結果が丁寧に描かれている.一喜一憂する様子も面白い.結局ほかの戦略はぼろぼろになったが,本命アノマリー戦略だけは効果を上げ,5週間後,著者は勝ち逃げに成功する.(なお著者はこのアノマリーが継続するとは限らないと読者にくぎを刺すのも忘れていない)

ちょうど効率的市場仮説に対抗して株式投資を行うような話であり,その意味ではある特定の数週間にあるアノマリーが継続するというのはいかにも株でもありそうな話だ.とはいえ株式投資と違って(胴元の取り分を考えると)サッカー賭博は平均期待値マイナスであり,応援しながら盛り上がれるメリットあってこそというものだろう.その意味では本命・引き分け戦略はあまり楽しくない.そこがアノマリーが出やすい理由でもあるのだろう.

本書は数学者によるサッカーへの数学応用をテーマにした本だ.野球だとその相加的な性格から,ひたすらデータを回帰的に分析して選手の評価や戦術の評価を行うことになりやすいが,サッカーは非相加的,非線形的な要素が大きいので,よりパターンの分析,特に動的な分析が重要になるのだ.そのあたりはなかなか興味深い.
次に採り上げる話題が広いのも本書の特徴だ.選手や戦術の評価にとどまらず,ボールの軌道,ルール改正の影響,プレーヤーのインセンティブ,最後にはサッカー賭博まで扱って読者を飽きさせない.
しかし本書の最大の魅力はユーロサッカーを舞台にした具体的な詳しい解析だろう.ロナウドの真の価値,バルサのパスサッカーの奥の深さ,名試合の戦術解説などあまりサッカーに詳しくない私でも十分に楽しめた*11.少しでも数学に親しんでいるサッカーファンにはこれほど魅力的な本はないのではないだろうか.


関連書籍


原書

Soccermatics: Mathematical Adventures in the Beautiful Game (Bloomsbury Sigma)

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選手の評価に関する革命を描いたマイケル・ルイスのノンフィクション

マネー・ボール〔完全版〕

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ブラインド・サイド アメフトがもたらした奇蹟

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野球はデータと統計を選手評価だけでなく様々な戦術の評価への応用を行うようになっている.それを守備シフトの物語中心に描いたノンフィクション.私の書評はhttp://d.hatena.ne.jp/shorebird/20160414


サッカーについての得点,戦術,選手評価についての本.私の書評はhttp://d.hatena.ne.jp/shorebird/20160508

サッカー データ革命 ロングボールは時代遅れか

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*1:最も大きな特徴は縦方向の長いパスの多用であり,成功のポイントはコミュニケーションだそうだ

*2:これは攻撃側がボールをドリブルしているからだろう.このために攻撃側の方が方向転換に広いスペースが必要になるし,だまそうとしてトリッキーな動きをしてもボールが相手にとって大きな手がかりになる.アメリカンフットボールではボールは手で持っているので,1:1で間にある程度スペースがある際にはランニングバックの方が有利とされている.

*3:なおあまり早く飛び込みすぎると優秀なアタッカーにチャンスを与えることもあると解説されている.その場合にはゴールから遠ざける方向に隙を作りつつ慎重に寄っていく方がいいそうだ.

*4:ここは「サッカーデータ革命」では解説がなくてもやもやしたところなのでこの詳しい解説はうれしい

*5:これはマイケル・ルイスが「かくて行動経済学は生まれり」でNBAについて説明している部分とはちょっとニュアンスが違っている.あるいはバスケットボールはサッカーとはまた異なる構造を持つのだろうか.

*6:なお原注を読むとサンプターはこの非線形性による協力をノヴァクのグループ淘汰モデルに相当すると考えていることがわかる.そこでは(いかにも自信なさそうに)ノヴァクの考え方は利他行動進化過程の分類の点で議論を呼んでいるので注意せよとも触れているが,いろいろ微妙だ.ノヴァクのグループ淘汰と血縁淘汰を分ける考え方自体賛成できないし,そもそもここで問題になっている非線形状況が生じるとこの協力は「相利的な協力」になるはずで,ノヴァクのいうグループ淘汰的な「利他行動」の進化ですらないのではないかと思われる.

*7:これにオフサイドトラップ戦術の効果がどのぐらいあるのかについて興味が持たれるが,そこには解説はない.

*8:カウンタープレスでは勢いが,ディーププレスでは安定性が重要だとまとめられている.

*9: 英国のサッカーファンはウェーブにはあまり乗り気ではないそうだ.そのあたりの解説も楽しい.

*10:顕著な例外は,数学的な課題だそうだ.これは専門家の意見の方が正しいことが多い.単純な見積もりでないとそうなるということだろう.

*11:これを読んだアメリカの数学者がアメリカンフットボールについて同じような本を書いてくれないだろうかというのが本音でもある.