「サルは大西洋を渡った」

サルは大西洋を渡った

サルは大西洋を渡った


以前私が書評したアラン・デケイロスの「The Monkey's Voyage: How Improbable Journeys Shaped the History of Life」が邦訳出版された.本書は生物地理学の壮大な学説史を扱ったもので,遠く離れた島や大陸に近縁種が分布する説明としてダーウィン以来の長距離分散説とそれに対抗する陸橋説,そして陸橋が否定されプレートテクトニクスが認められるようになった後の分断分岐説との激しい論争,その際に取り上げられた様々な動植物の分布の謎を取り扱っている.特に分断分岐説の興亡については詳しく採り上げられているが,これはデケイロス自身が論争の当事者でもあり臨場感豊かだ.

一部の論争記述についてはバイアスがかかっている部分もあるようだし,最近の分子系統地理学の話が出てこないのも少し残念だが,一般向けの学説史を扱った本としては,ダーウィンから始まり,世界各地の興味深い生物分布を扱うなどテーマのスコープも広く,敵役の分断学派のキャラクター設定が思いっきりとんがっていて,面白くて一気に読み進めていけること請け合いだ.迫力満点の大変充実した本だと思う.


私の原書の書評はhttp://d.hatena.ne.jp/shorebird/20140713


原書

The Monkey's Voyage: How Improbable Journeys Shaped the History of Life (English Edition)

The Monkey's Voyage: How Improbable Journeys Shaped the History of Life (English Edition)


なお分岐学論争の同時代的目撃者であった三中信宏による本書の歴史記述スタンスに対して厳しく批判的な書評,および短評はこちらhttp://d.hatena.ne.jp/leeswijzer/20160126/1453854925http://d.hatena.ne.jp/leeswijzer/20161230