
- 作者: サミュエル・ボウルズ,ハーバート・ギンタス,竹澤正哲,高橋伸幸,大槻久,稲葉美里,波多野礼佳
- 出版社/メーカー: エヌティティ出版
- 発売日: 2017/01/31
- メディア: 単行本
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第10章 社会化 その3
ここまででボウルズとギンタスは規範の内面化が(その能力発達コストを考慮しても)集団内で有利になるものなら,規範内面化能力が,垂直伝達バイアスがあれば進化することを示した.次に集団内では不利になる規範の吟味がなされる.
10.4 ヒッチハイカーとしての内面化された規範
- 前節のモデルに適応度減少規範保持A,非保持Sを追加する.
- すると個人の状態は,aCA,aCS,aDA,aDS,bDSの5通りになる.
- さらにこのモデルにA規範の同調(斜行伝達)も組み込む(10.2節と同じくS→A方向のみで生じ,A型の頻度に応じて伝達確率γが決まる,)
- モデルの前提として適応度は加法的ではなく乗法的とする(aCAの個体の適応度は(1-u)(1+f)(1-s)となる:なぜ加法的と仮定しないのかについては解説がない,計算が便利で,u, f, sが1に対して比較的小さな値であればそれほど差は無いということだろう)
- 集団内で相互作用に正の同類性がなければCの進化条件は(1-u)(1+f)(1-s)>1になる.
- それぞれの状態の頻度変化方程式を立てて安定性解析すると以下の結果になる.
- aAD,aSDは安定均衡をもたない(それ以外の3つは安定均衡を持つことがある)
- aAC均衡はs<γの時に安定になる.(規範の不利を斜行伝達の容易性で上回る必要があることを示している)そしてaSC均衡はγ<sのときに安定になる.
- bSD均衡は(1-u)(1+f)<2の時に安定になる.
- これは以下のように解釈できる
- aACが安定均衡になり得るのは斜行伝達のポジティブフィードバックがあるからだ.全員がAになるか全員がSになるかのいずれかが安定になる.
- aとCは互いに引き付け合う.ペアになって侵入できない場合にはbSDが安定均衡になる.(aAD,aSDは安定しない)
- 以上のことからCという利益をもたらす規範があれば,aは進化しうるし,その場合,さらに斜行伝達が利他性のコストに対して十分強ければAも進化しうることになる.つまりAはCに便乗した場合に進化できる.
いろいろ難しく書かれているが,要するに世の中に利益を生む規範があれば,規範内面化能力が進化するし,そうなれば本来不利な規範も(そのコストが利益を生む規範の利益の範囲内であれば)同調影響力が強い場合には一緒に進化してしまうという結果になるということだ.著者たちの議論の主眼は利他性規範だが,むしろ本人にダメージを与える迷信ミームがはびこる様子を表すモデルとして解釈できるだろう.
10.5 適応度を減少させる規範における遺伝子と文化の共進化
次に著者たちは「採用すると不利に見える規範を内面化するのを避けるのではないか」という問題に取り組む.
- 10.4のモデルに10.2で扱った利得に基づく更新を組み込む.各メンバーはその頻度に応じて出合い,相手の方が利得が高ければパラメータηに比例してその型に変化する.
- 安定均衡解析をすると,aAD,aSDはやはり安定均衡をもたない.bSDの安定条件も変わらない.
- aACの安定条件はγ>sから以下の式に置き換わる.同調影響力がコストを上回っても利得影響力が十分に大きければコストのある規範は保持されない.
- aSCの安定条件はγ<sから以下の式に置き換わる.
ここも難しく書かれているが,内容はある意味当然のことだ.この規範を採用したら損になるとわかり,捨てることが可能なら人々はそれを選択的に捨てるようになるのだ.