Enlightenment Now: The Case for Reason, Science, Humanism, and Progress (English Edition)
- 作者: Steven Pinker
- 出版社/メーカー: Viking
- 発売日: 2018/02/13
- メディア: Kindle版
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第14章 民主制 その2
ピンカーはまず,民主制というのは理想化されやすいが,そうではなく,人々を混乱から守る最低限の仕組みであり,人々が不満を表明でき,統治者を平和的にやめさせる方法があるところがポイントだと指摘した.
- 不満を言う自由は,統治者が不満を表明したものを罰さないという保証の上に乗っている.だから政府の権力の抑制こそが民主制の基本なのだ.
- 世界人権宣言をはじめとする国際的な合意は,悪辣な統治者のやり口(拷問,裁判なしの死刑,投獄など)にレッドラインを引こうとするものだ.そして実際に民主制国家はこのような人権に敬意を払っている.
- しかし世界にはシンガポールのような温情的な専制制や,パキスタンのような抑圧的な民主制も存在する.これは民主制の進展が本当に進歩と言えるのかという疑問を生む.
- アムネスティインターナショナルは人権侵害を何十年もモニターしている.1970年以降の数字を表面的に見ると,民主化の進展にもかかわらず世界中の政府はどんどん抑圧的になっているように見えるかもしれない.人権活動家や文化悲観主義者は,これらの数字をもとに「人権主義の終焉」とか「人権法の黄昏」とか「人権後の世界」などと宣言する.
- しかし進歩それ自身がその軌跡を隠すこともある.過去は問題にならなかったことが人権侵害と報告されるようになっているのだ.背景には人権活動家は何としても問題を見つけ出さなければならないと感じているということがある.政治家学者のキャサリン・クリストファーはこれを「情報のパラドクス」と呼んでいる.活動家が人権侵害を見つけ出そうと熱心になればなるほど,その定義は広がり,それはより見つかるのだ.
- 政治科学者クリストファー・ファリスはこれを補正する数理モデルを創り出し,時系列で比較できる人権侵害のグラフを可能にした.各国のトレンドはいろいろだが世界全体では人権カーブは上向きだ.
ここでそのグラフが掲載されている.縦軸が人権保護の度合いを示し.1945年から2014年までの世界全体,ノルウェイ,韓国,中国,北朝鮮の推移が示されている.ソースはOne World in Data.なおデータ元のOne World in DataのWeb pageは完全にパブリックグッズでありフリーユースであるとされているようだ.https://ourworldindata.org/human-rights 様々なデータにアクセスしていろいろなグラフを作ることもできる.デフォルトで示されているグラフはピンカーの載せているグラフにハンガリーとアルバニアが加わっていて,この両国の比較も興味深い.
このグラフはなかなかいろいろ語ってくれる.中国の毛沢東の文化大革命時の低下振りと鄧小平の改革解放時の上昇振りは特別に印象的だ.なお中国のグラフは2012年から2014年にかけて小さく上昇しているが,習近平が完全に権力を掌握したその後の成り行きはどうなっているのだろうか.
マップも見られる.
北朝鮮より状況が悪い国としてはシリア,スーダン,コンゴがあるようだ.
日本のグラフを見てみると,(かなり意外なことに)1970年代がピークになっており,そこから一旦下がり,後に回復するような形になっている.(縦軸のスケールがデフォルトグラフと異なっているので印象ほど上下があるわけではない)どのような指標が効いているのか少しわからないが,バブル崩壊後は経済の影響をかなり受けているように見える.
その他のいくつかの国のデータもあわせたグラフを作ってみた.ノルウェイがむしろ例外で,西ヨーロッパ諸国や日本は大体同じような傾向になるようだ.その中でアメリカが1980年以降ガンガン下がっていてかなり低い評価になっているのはちょっと驚きだ.それでも民主制の国とそうでない国の差は大きいことが実感できる.
アジア諸国の比較も行ってみた.台湾の高評価が印象的だ.