Virtue Signaling その9


Virtue Signaling: Essays on Darwinian Politics & Free Speech (English Edition)

Virtue Signaling: Essays on Darwinian Politics & Free Speech (English Edition)

 

第4エッセイ 道徳的徳の性淘汰 その5

 
ミラーは求愛において様々なテストが行われているが,それは道徳的にどうかという視点でかなり統一的に説明できるものであることを主張し,実際に重視される「優しさ」は動物の給餌求愛に極めて似ていると指摘した.
次は,「これがテストであるなら,集団間に成績に分散がある必要がある」という部分に移る
 

道徳的特徴,あるいは擬道徳的特徴の個人差心理学

 

  • 心理学で最もよく調べられている個人差のいくつかは道徳的,あるいは擬道徳的側面を持つ
  • これらにはパーソナリティ,メンタルヘルス,知性における個人差が含まれている.このような遺伝性のある個人差は道徳的な結合価(valence)を持ち,望ましい特徴は性的に魅力的だ.これらの特徴は関連している.それは抽象的な条件が重なっているからというわけではなく,同じような遺伝的変異,発達上のエラー,神経的な異常により影響されるからだ.

 

パーソナリティ

 

  • 近時のパーソナリティ研究はビッグ5モデルの圧倒的な影響化にある.このなかで誠実性(conscientiousness)と調和性(agreeableness)は長期的配偶相手として特に重視されており,性淘汰である道徳的徳である可能性が高い.
  • 誠実性には約束を守る,コミットメントをリスペクトする,悪習に染まらないなどが含まれる.勤勉性,自己コントロール,責任感などを包含する.そして感情的成熟,ロマンティックな相手となる可能性,向社会性の結びつき,正直,信頼性などと関連する.さらに健康的な生活習慣,薬物中毒へのなりにくさなどとも関連する.これらは多くの社会的性的なドメインにおける徳目になる.
  • 調和性には暖かさ,親切,同情的,非攻撃性が含まれる.博愛,道徳的伝統へのリスペクト,社会的関係の安定性平和性と関連する.調和性の低さはパーソナリティ障害と相関し,攻撃的,傲岸,ナルシシスティック,共感の不在と関連し,性的関係において望ましさを下げる.特に良い親,良いパートナーとしての評価に関連するのだろう.
  • 残りの外向性,神経性,開放性は道徳的な評価が曖昧で,同類配偶的に働く.性淘汰は特に方向性を与えずに分散を大きくする方向に働いただろう.

 

  • では誠実性と調和性というパーソナリティは道徳の進化に本当に関連するのだろうか.
  • 道徳哲学者たちは最近パーソナリティ心理学に対する社会心理学からの批判(個人か状況か論争)を再発見した.社会心理学者の関心は「安定したパーソナリティなど存在しないのではないか,それはバイアスのかかった社会帰属システムの反映に過ぎないのではないか」というところにあった.一部のリサーチャーは社会心理学は安定したパーソナリティが存在しないことを見いだしており,徳倫理学は成り立たないと主張した.
  • 残念なことに徳倫理学者たちはこの批判に対して実証的に反論しなかった.しかし,リサーチは通文化的にパーソナリティに信頼性,安定性,遺伝性があることを示している.

 
道徳性のディスプレイが有効であるためには(ちょうどメスの配偶選択において,美しいオスやくすんだオスなどの様々な美しさのオスの中からより美しいオスが選ばれるように)集団間にその分散がなければならない.道徳性の個人差があるとするならそれは性格,パーソナリティの部分に現れるだろう.ミラーはここからビッグ5モデルの中に道徳性を当てはめようとしている.さらにこれはある程度安定した個人差になるので,道徳哲学的には徳倫理学と相性が良いということになると考えているようだ.