Virtue Signaling その25


Virtue Signaling: Essays on Darwinian Politics & Free Speech (English Edition)

Virtue Signaling: Essays on Darwinian Politics & Free Speech (English Edition)

  • 作者:Geoffrey Miller
  • 出版社/メーカー: Cambrian Moon
  • 発売日: 2019/09/17
  • メディア: Kindle版
 

第6エッセイ 言論の自由に関するニューロダイバーシティの擁護 その6

 
ミラーはここで,アスピーたち自閉症スペクトラムの人々の苦境をより詳しく解説する.自閉症スペクトラムはシステム志向と共感志向のトレードオフの現れであり,共感志向者によって定められた規範はシステム志向者にとっては理解不能なものになるのだ.
 

システム志向 vs 共感志向

 

  • キャンパスの検閲とニューロ多様性問題の中心にあるのは自閉症スペクトラムだ.それはシステム志向と共感志向の間にはトレードオフがあるからだ.
  • システム志向とはルールと証拠とプロセスについての抽象的システムを構築分析しようとするものだ:それは男性,自閉症スペクトラム,STEM分野において優越する.
  • 共感志向とは他人の思考と感情を理解し,適切な感情や言葉で対応しようとするものだ:それは女性,統合失調スペクトラム,芸術と人文科学の分野で優越する.
  • 保守派の皮肉屋はしばしば社会正義戦士たちのことを「自閉症的な金切り声」とあざけって形容する.しかし左派の学生抗議団体は,(自然科学や工学分野のシステム志向者であるより)芸術,人文科学,社会科学分野の高い共感志向者であることが多い.
  • バロン=コーエンが提唱したEQ(共感指数)に照らしてみると,高いEQを持つ人々ほど大学のスピーチコードの理解が容易になることがわかる.そしてアスペルガーなどの自閉症スペクトラムの人々のEQは低く,何が他人を怒らせるのかの予測が不得意でコード逸脱しやすい.
  • 男性は平均的に女性よりEQが低い.ということはスピーチコードの強制は男性差別の面も持つことになる.

 
 
ミラーはさらに共感志向者による規範は,共感志向者のみが理解可能な形で歪んでおり,ダブルスタンダードを含み,そして確立された科学的知見を無視していると糾弾する.ここはアスピーの魂の叫びという感じだ.
 

  • スピーチコードによるシステム志向者への差別は,コードが曖昧で非システマティックな体系になっており,しばしばダブルスタンダードを含み論理的に一貫していないことによりさらに悪化している.このようなコードはシステム志向者にとっては我慢ならないものだ.
  • 例えば,多くのコードは性や人種や宗教や政治的態度に基づいた侮辱を禁じている.しかしアスピーたちはこの基準が極めて選択的に適用されているのに気づく.毒のある男性性や家父長制度を侮辱するのはOKだが,男女賃金格差問題を侮辱するのは許されない.白人の特権やオルトライトを侮辱するのはOKだが,アファーマティブアクションを侮辱するのは許されない.中絶反対のカトリックを侮辱するのはOKだが聖典原理主義のイスラムを侮辱するのは許されない.
  • また「歓迎されない(unwellcoming)」という概念はアスピーたちにとってはタイムトラベルパラドクスのようなものだ.事後のフィードバックを知る前にどうやってある言辞が歓迎されないものかどうかを判断できるというのだろうか.

 

  • さらに悪いことには,ほとんどの大学のスピーチコードはジェンダーフェミニズム,クリティカル人種理論,社会構築主義などの社会正義理論と関連づけられている.そしてこれらの理論は,性差,人種差,行動遺伝学などについてのよく確立された科学的知見を棄却しているのだ.アスピーたちに明白な誤謬理論に基づくスピーチコードを尊重させようとするのは,彼等のシステム志向性から来る論理性,合理性,リアリズムについての高い価値観に違背するものだ.

 
リベラルのダブルスタンダードは論理的には「規則の例外として強者やマジョリティは侮辱してもいい」ということだから,この論理的構造自体がアスピーに理解不能というわけではないだろう.しかしそのような例外をあえて規則の上で明示せずに,「明示しない理由は自明だし,明示してなくても当然わかるしょ」という態度がアスピーには理解不能だし,アスピーが白人男性である場合にはどう考えても納得しがたいだろう.そしてついそのダブルスタンダードを馬鹿にしたい気持ちになってしまうということだろう.
 
 
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システム志向と共感志向はサイモン・バロンコーエンが提唱している概念だ.

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