From Darwin to Derrida その16

 
生物個体内の遺伝要素間コンフリクト.次は性染色体に絡む問題が取り上げられる.
  

性染色体

 

  • 有性生殖生物の平均的な遺伝子は,オスの身体内とメスの身体内で,平均して同じ時間を過ごしている.それはすべての生物個体は1個体の母と1個体の父を持つからだ.しかしながら,一部の遺伝子は片方の性の中にいる方がより有利になる.(片方の性における有利性が伝統的な適応度であっても,分離比にかかるもの(マイオティックドライブ)であっても)このような性的拮抗遺伝子は(その遺伝子にとって有利な方へ)性決定を歪める遺伝子と一緒にいると有利になる.
  • ある性に性比を歪める遺伝子とその性で有利な遺伝子は互いに相手の存在が有利になるために,この過程は自己増強的に進み,連鎖不平衡を強める方向に働く.この結果ゲノムはどちらの性にも同じ時間通過する遺伝子群(常染色体遺伝子)と特定の性でより時間を過ごす遺伝子(性染色体遺伝子)に分離する傾向を持つようになる

 
まず最初に取り上げられているのは性染色体の起源の問題だ.ここではヘイグはそれは遺伝要素間のコンフリクトに絡む同盟から生じたのだと主張している.
 

  • 精子形成,あるいは卵形性におけるマイオティックドライブは,片方の性への歪比を有利にし,性染色体の進化を引き起こす.そして(一旦性染色体が進化した後)性染色体上で生じた歪比遺伝死は有利になるだろう.
  • マイオティックドライブのエージェントと性決定遺伝子の連関は性比自体の歪みを生むが,(常染色体上の)遺伝子議会の対抗を受けるだろう.なぜなら常染色体遺伝子は少数の性にいる遺伝子が有利になるためにフェアな分離を押し進めるからだ.

 
そしてそのような同盟は性比を(常染色体上の遺伝要素にとってのESSから離れるように)歪めようとするために常染色体上の遺伝要素とコンフリクト関係になる.
 

  • ハミルトン(1967)は,しかし,常染色体上の遺伝子も時に性比の歪みを好むことを見いだした.彼は非血縁の少数のメスが局所的な集団を創設し,子どもはその中でのみ交配し,受精したメスが分散する場合のケースを考察した.
  • (XYシステムで性決定する生物において)オスが2倍体で分離が厳密にメンデリアンであればグローバルな交配集団の性比は1:1にになるはずだ*1.またこのとき,局所集団においてはX染色体のある精子とY染色体のある精子の比率がランダムにばらつくために,それぞれの性比はこのグローバルな1:1性比から若干のばらつきが生じるだろう.
  • ここで,あるメスの子どもの期待適応度はその局所集団の性比にかかわらずグローバルなメスの平均適応度と一致する*2.しかしオスの子どもの期待適応度は局所集団の性比がメスに傾いている方がグローバルの平均より高くなる*3
  • このためメスに傾いた集団を引き起こすことのできる常染色体上の遺伝子は平均より高い適応度を得ることになる.すると1:1性比はもはやunbeatable戦略ではなくなる.
  • この例では遺伝子の議会は性比について異なる政策を好む政党に分かれることになる.X染色体党,常染色体党,ミトコンドリア党は,Y染色体党に対抗して,メスに傾いた性比を実現するための同盟を組むだろう.しかしこの3党も正確な望ましい性比については意見を異にする.性にかかる政治は減数分裂の議会ルールを根本的に危うくしうるのだ.

 
ここはハミルトンの局所配偶競争(LMC)理論についてのヘイグ流の解説になる.最後の4政党のメタファーは面白い.ここでESSといわずにunbeatable戦略という用語を使っているところにヘイグのハミルトンへのリスペクトが感じられる.相手の戦略に自分の戦略の適応度が依存するようなゲーム的な状況でどのような戦略が進化するかという問題についてESS的な思考を最初に公にしたのはこの1967年の論文でunbeatable戦略という用語を使ったハミルトンになる.後にメイナード=スミスが数理的に明晰に記述したESS概念を提唱したためにそちらが主流になる.ハミルトンとメイナード=スミスのあいだには包括適応度理論のオリジナリティをめぐっていろいろ確執があったことが知られるが,この一件もその背景になっているようにも思われる.ただハミルトンがESSについて自分が先に出したアイデアだと公的に主張することはなかったようだ.
 
ハミルトンとメイナード=スミスとの確執についてのはこの本がくわしい.私の書評はhttps://shorebird.hatenablog.com/entry/20130322/1363949965

*1:分離が厳密にメンデリアンであれば,X染色体のある精子とY染色体のある精子の比は1:1になるから状況の如何に関わらず子どもの性比も1:1になるはずだという趣旨

*2:いずれにしても受精して分散するので局所集団の性比の影響は受けない

*3:オス1個体当たりより多くのメスを受精させられるためにそうなる