From Darwin to Derrida: Selfish Genes, Social Selves, and the Meanings of Life (English Edition)
- 作者:Haig, David
- 発売日: 2020/03/31
- メディア: Kindle版
生物個体内の遺伝要素間コンフリクト.次は核内遺伝子と細胞質内オルガネラ遺伝子の対立だ.
真核生物連合
- ほとんどの核内のコンフリクトはフェアな分離比と組換えによって鎮められている.しかし真核生物にはミトコンドリアや葉緑体にも遺伝子があり,それらは減数分裂条約に加わっていない.それらはもともと共生バクテリアのものだ.多くの共生バクテリア由来の遺伝子は核内に移ったが,いくつかは今日もミトコンドリアや葉緑体遺伝子として残っている.
- なぜ一部の遺伝子は核内の公正ルールを受け入れ,一部の遺伝子は独立を保っているのか,そしてなぜこれらの同盟変更は一方向(オルガネラ→核)のみなのかというのはよくわかっていない.核とオルガネラは相互に依存しているが,この伝達ルールの違いはパートナーシップにおけるコンフリクトのもとになる.
なぜオルガネラの遺伝子が核内に移る傾向があるのかというのは面白い問題だが,ヘイグによると未解決問題ということになる.オルガネラに残っている遺伝子はオルガネラの存続にとって不可欠だからという説明はあり得るだろう.そうすると残る問題はオルガネラ遺伝子が核内に移るのは誰の利益になっているのかということかもしれない.オルガネラ遺伝子にとって核内にいた方がメリットがある(次節にある片親からのオルガネラ遺伝を抑制する仕組みが進化した後ではオスの体内のミトコンドリアにとっては精子の核に潜り込むことが唯一の生き残り戦略になる)のでうまく潜り込んだのか,それともコンフリクトを下げることにより利益を受けるのは核内遺伝子であって核内遺伝子がコンフリクトに勝利しているということなのか,あるいは双方にメリットがあるのだろうか.
- もし由来の異なるオルガネラ血統が同じ細胞質に入ったら,血統間で細胞質を取り合う競争が生じ,核にはコストになるだろう.コスミデスとトゥービイは核遺伝子は,接合子の片方のオルガネラ血統を破壊することで,血統間のコンフリクトを抑えるように進化するだろうと指摘した.彼等はこの理由により精子にある核内遺伝子は受精前に精子のミトコンドリアを排除するのだろうと推測している.これは精子と卵の(異型接合性の)進化のキーファクターなのかもしれない.これに関連してハーストとハミルトンは核の遺伝子を細胞質融合なしに交換している分類群では配偶子の異型性が進化していないことを指摘している.
このあたりの配偶子の異型性進化の問題も興味深いところだ.オルガネラ血統間コンフリクト抑制以外にも,単純な出合い確率を用いた説明,ミトコンドリアの均質性が有利になるという説明などいくつもの異なる説明があって決着はついていないようだ.
- ミトコンドリアと葉緑体が片親からの遺伝に限定されていることにより上記のコンフリクトは解消された,しかしこれにより別のコンフリクトが生まれている.核遺伝子は精子と卵により伝達されるが,オルガネラ遺伝子は卵からしか伝達されない.これによりオルガネラはオス機能を通じた伝達を防ぐことに(よりメス機能を通じた伝達リソースを増やせるなら)利益を得る.細胞質雄性不稔性は植物で何度も進化している.よく調べられたケースでは皆この不稔性はミトコンドリア遺伝子により生じ,核遺伝子により不稔性を修復するように対抗されている.葉緑体もメス伝達だが,このような不稔性を生じさせることは観察されていない.そのようなメカニズムを欠いているか,あるいは容易に核遺伝子に対抗されてしまうのだろう.
このミトコンドリアによる細胞質雄性不稔も大変面白い問題だ.実際にこの性質は栽培植物の育種家にとって大変便利なツールになっているようだ.植物の多くは雌雄同株なので,花粉産出を抑制しても(そのリソースを卵(胚嚢)産出に回せるから進化しやすいのだろう.
ヘイグもコメントしているが葉緑体との違いはなぜあるのだろうか.また雌雄異株植物や雌雄同体動物ではどうなっているのかも興味深いところだ.
- このような内部コンフリクトにもかかわらず,真核生物は見事に繁栄している.ダニエル・デネットはヒトにおける遺伝子とミームの共生の成功を真核生物の偉業になぞらえている.遺伝子とミームは異なる伝達ルールに従い,(真核連合と異なり)片方がもう片方の伝達ルールを受け入れることもない.だからコンフリクトはあることが期待される.実際に一部のヒトは信念のために死に,一部のヒトはセックスのために信念を捨てる.
この最後の遺伝子とミームのコンフリクトに関するコメントも面白い.