From Darwin to Derrida その28

 

第4章 違いを作る違い その3

 
ヘイグによる遺伝子概念の掘り下げ.表現型に続いて機能と副作用が扱われる.進化的な議論の場合には機能と副作用(side effect)という概念対比ではなく,適応と副産物(by-product)という対比の方がよく使われるが,ここでは遺伝子の機能という観点から議論していくので,複製効率に正の影響を与えるかどうかが問題になり,この用語対比になるということだろう.
  

機能と副作用

 

  • 遺伝子はそれが複製される可能性に影響を与える効果を持ちうる.自己の複製効率を上げる遺伝子は頻度を増し,その効果が弱い代替遺伝子は駆逐される.だからあるDNAの配列の効果はその存在の原因要素の1つであり得る.この遺伝型と表現型の因果的なフィードバックこそが(突然変異と合わせて),目的のない過程(自然淘汰)が目的に層構造と機能(適応)を生みだすことを説明する.環境が表現型を(そして遺伝型を)選ぶのだ.この意味において遺伝子は(その環境で何が働くかの)情報を表している.
  • 遺伝子の効果は機能と副作用に区別できる.それは遺伝子の複製への平均的な効果で分けられる.遺伝子の機能はこのような過去の世代からの伝達に寄与したもので成り立っている.遺伝子の効果のすべてが表現型を作り陶太に晒されるが,複製効率を上げるもののみが機能を構成する.もし陶太がなんらかの害のある副作用を選んでいるなら,その遺伝子はその害を上回る益をもたらす効果を持つはずだ(陶太のトレードオフ).
  • 機能は遺伝子の適応だ.ある効果が適応とされるなら,変異遺伝子はその効果がないために過去排除されたはずだし,(適応で有る限り)新たな変異が生じても排除されるだろう.遺伝子の効果は環境が変わると変化し,適応が副作用になったり,その逆が生じたりする.機能は目的因なので,遺伝子の機能を論ずるときには目的論的な用語が適切になる.遺伝子の存在原因とその効果は両方ともあるのだ.

 
ここで第1章で扱った「目的因」が現れる.複製効率にどう影響するかが機能と副作用の分かれ目だが,複製効率を上昇させるものは「目的因」になるというのがヘイグの取り扱いになる.
ここから「環境」の議論になる.
 

環境

 

  • ある遺伝子の環境には,それについて遺伝子の効果が測定されるすべての要因が含まれる.それには生物の細胞や身体の外側要因だけではなく,細胞や身体自身が含まれる.身体は遺伝子群の集合的構築ニッチと見ることができ,その延長された表現型だ.遺伝子の環境として最も重要なのはそれが相互作用する分子だ.そしてその他の遺伝子,同じ遺伝子座の他のアレルも遺伝子の社会的環境の一部だ.その遺伝子は経験するが代替となる遺伝子が経験することがない要因はすべてその遺伝子の表現型であり,環境ではない.
  • 遺伝子は異なる環境で異なる効果(適応の場合もそうでない場合もある)を持ちうる.もし類似環境に対して代替遺伝子が別の効果を持つなら,そのような反応基準は淘汰の対象である表現型になる.

 
ヘイグの突き詰めた概念整理によると生物の身体すら「延長された表現型」ということになる.環境と表現型の究極の区別の議論も面白い.
 

  • 遺伝的伝達と表現型の発達は直交軸として概念化できる.そうすれば垂直軸は世代間の情報の伝達,水平軸はそれぞれの世代の発達を表すことになる.遺伝子と環境の関係は2つの軸で異なる.垂直軸では遺伝子の持つ情報は遺伝子間の違いにかかる淘汰にかかる環境からくることになる.水平軸では遺伝子と環境は形態を作るために協調して相互作用する.垂直軸では遺伝子は過去の環境を参照し,水平軸では現在の環境と相互作用するのだ.

 
進化的な意味では遺伝子の中に過去環境の情報が書き込まれており,その情報を元に現在環境と相互作用しながら遺伝子が発現して行くということだが,これは遺伝子淘汰主義の批判勢力の1つ「発達システム理論」との関係で重要なトピックということになる.
 

  • この2つの軸は因果的に独立しているわけではない.もしある遺伝子が現在環境下で淘汰的差異を作っているなら,これは遺伝子プールの構成を変えるだろう.ある特定の世代だけ考えると,ゲノム全体が淘汰を受けており,特定の遺伝子の淘汰を記述することはできない.しかしながらゲノムは各世代において組換えを受ける.だから世代を重ねると短いDNA配列は多様な遺伝子バックグラウンドの中でテストされる.水平軸においては環境との複雑な相互作用の結果遺伝子の効果は非相加的だ.しかし垂直軸においては遺伝子頻度の変化はゲノムのごく小部分の平均的相加的効果で説明できる.

 
この部分は遺伝子の効果の相加性という問題における重要な視点ということになる.いずれもいろいろ捻れた議論になりやすいところの交通整理ということになるだろう.