第13回日本人間行動進化学会(HBESJ Fukuoka 2020)参加日誌 その2

 
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大会初日 12月12日 その2

 
招待講演の後はLINC-Bizによる個別発表.例年だと口頭発表とポスター発表に分かれるが,今回はすべてLINC-Biz上での発表となる.プレナリーでみんなで聞いて議論するということはなくなるが,LINC-Bizだと(ポスター発表と違って)個別の(じっくり時間をかけて考え抜いた応答も含め)議論がすべて可視化されるので,より充実した部分もあるという感想だ.
 

個別研究発表 I

 
個別発表は初日と二日目それぞれ2時間が当てられており,後半1時間がコアタイム(初日が奇数番号,二日目が偶数番号)と割り当てられている.LINC-Bizだけでなく個別のZoomでの質疑応答も可能だ.
 
ここでは私が興味深かったものをいくつか紹介しよう
 

利他的サイコパスとは? -SVOと年齢による検討- 仁科国之

 

  • サイコパスは基本利己的に振る舞うが,合理的な判断として(なんらかの見返りがあると判断して)協力的,利他的な行動をとることがある.例えば独裁者ゲームで友人により多くの金額を提供することが報告されている.
  • では見知らぬ人に協力的になることはないのだろうか.そこでサイコパス傾向のあるヒトがどのような環境で協力的になるのか,特にSVO(社会価値選好:pro-selfかpro-socailaか)の状況,年齢に注目して調べた.(ウェブ上の調査)
  • 結果は(1)サイコパシー傾向が高くとも友人には協力的(先行研究の確認),(2)サイコパシー傾向が高く,pro-social選好がある場合,若い年代(20〜40歳)では見知らぬ他者に協力的だが,高齢(40歳〜)では見知らぬ他者に協力的でなくなる,というものだった.
  • 年齢効果の要因としては向社会性が配偶選択されるために若い年代でより有利になること,高齢期には(引退するなど)社会環境が変わって利他行動の有利性が減ること,加齢による前頭前野の衰え(本当は向社会的に振る舞う方が有利な場合でも認知機能の低下によりぼろが出る)が影響していることが考えられ,今後要検討である.

 
若いうちは異性へのアピールとしての利他性に互恵効果を越えた有利性があるが,40を越えるとその有利性が減るというのも面白い着眼だし,認知機能が低下したために本当はここで利他的に振る舞った方がのちのち得かもしれないが,本来の利己的な衝動が抑えきれなくなりぼろが出るというのもいかにもありそうな話だ.今後の進展を期待したい.
 
 

現代日本の男性の社会経済的属性と再生産行動 小西祥子

 

  • 20〜54歳の日本の男性4000名を対象にオンライン調査した結果の発表
  • 楽天インサイトモニターを利用して年齢,学歴,収入.配偶状況,子ども数.過去1ヶ月の性行動(頻度,相手人数)をアンケートした
  • 結果:年齢が高いほど子ども数,セックス相手数が多かった.収入は子ども数には少し相関があったがセックスパートナー数とは相関がなかった(年齢と収入には交絡の可能性があることは意識されている).学歴が高いと子ども2人以上持つオッズ比が低かった.大学院卒では複数のセックスパートナーを持つオッズ比が低かった.

 
生のデータが大変面白い発表.特に学歴と子ども数やセックスパートナー数に負の相関があること,そして年収とセックスパートナー数の相関がないことは興味深い.発表者は学歴と子ども数,セックスパートナー数との関係について経済的理由よりも性規範との相関を示唆しているのではないかと考察していた.
質疑応答では子ども数は結婚年齢要因が大きいのでそれを調整した方がいいのではないか,セックスパートナー数は真の人数よりも報告バイアス(セックス自慢で誇張する,性規範や浮気発覚リスクから過小報告する)の影響ではないかなどが議論されていた.
 
 

Exit optionがある場合の3人囚人のジレンマゲームの進化ゲーム理論に基づく解析 黒川瞬

 

  • 協力行動の進化を説明するメカニズムの1つとして提唱されている「協力者との関係は維持するが,非協力者との関係は打ち切る」という戦略について,3者間相互作用において協力の進化条件をシミュレーションした.
  • 3人囚人ジレンマで協力者はコストcを払い,協力すると自分を含めた3個体がb/3を得る.
  • ラウンドごとに各個体は関係継続か打ち切りかの意思表示を行い,n個体が打ち切ると意思表示した場合にはpnの確率で関係は打ち切られる(p0≦p1≦p2≦p3=1).関係が打ち切られると打ち切られた個体同士でランダムにグループが形成される.
  • ラウンドとグループ形成が繰り返され平衡状態に落ち着いた後,そのときの利得に応じたレプリケータダイナミクスにしたがって戦略の頻度が変化する.
  • 結果1:(p0,p1,p2,p3)=(p, 1, 1, 1)のときには寛容な(関係を継続しようとする)協力者が進化しうるが,(p, p, 1, 1),(p, p2/3, p1/3, 1),(p, p, p, 1)のときには寛容な協力者は進化し得ない.
  • 結果2:同じく(p, 1, 1, 1),(p, p, 1, 1),(p, p2/3, p1/3, 1)のときには協力が進化しうるが,(p, p, p, 1)のときには協力は進化し得ない.
  • 結果3:上記すべての場合において4戦略が共存する状態には進化しない.(寛容な協力者と非寛容な協力者は共存できない)

 
寛容さの進化と協力の進化が絡み合っていてなかなか結果の解釈が難しいという感想.質疑応答ではこのシミュレーションでは3人のうち協力者2人が残って非協力者を排除することがないという前提になっていることについてのgroup cohesionを絡めた議論,グループ形成のコストがかかる場合はどうなるかなどの議論がなされていた.