From Darwin to Derrida その51

 
 

第6章 個体内コンフリクト その6

個体内コンフリクト,ヘイグはゲノム内の遺伝子間コンフリクトの話の前にミームと宿主のコンフリクトを扱う.
 

  • 何故私は自分の本が読まれるかどうかを気にするのだろうか.そして人々はなぜ自分のアイデアが広がることを望むのだろう.私たちが実際にそういうことを気にしているという事実は遺伝子の伝播とアイデアの伝播には何かしら進化的な相関があることを示唆しているだろう.言い方を変えると,自分のアイデアをうまく広めることは平均的に自分の遺伝子を広めることに役立つのだろう.
  • アイデアは厳しい環境下での自分や血縁者の生存にとって有用であり得る.またアイデアはディスプレイとして役に立つだろう.私は自分がいかに頭が良いかをあなたに示したい.馬鹿げたことは言いたくない.私は広がった自分のアイデアの栄光の恩恵に浴したい.優れたアイデアの増殖者はリソースのコントロールや影響力をもつようになったはずだ.
  • 私たちはアイデアを作り広げようとする本能を持っている.そしてこの本能はアイデアが競争して進化する環境となるのだ.

 
ヘイグのこの議論は面白い.私たちは性淘汰を含む社会淘汰圧を受けており,そこでは自分が優秀であったり信頼できることを説得力を持ってディスプレイすることが有利になる.だから思いついたりそれを広めようとすることが優秀さや信頼性についての(コストを伴う)シグナルになるようなミームは正の淘汰圧を受けることになるわけだ.この場合ミームと宿主の利益は一致している.しかし常にそうではない.

 

  • 「良い」アイデアは説得的だ.それは(私たちの遺伝的適応度を増進しなくとも)私たちの遺伝的バイアスに働きかける.だから遺伝的繁殖とミーム的繁殖の相関関係は完全にはなり得ない.それどころかミーム的繁殖は時に遺伝的繁殖を犠牲にして生じうるし(ヒトはイデオロギーや宗教のために喜んで死ぬことがある),その逆も生じうる(カリスマ的伝道者が一時的な性の誘惑に負けることもある).(遺伝的)自然淘汰は遺伝的適応度を犠牲にするようなアイデアを取り入れることに抵抗するような傾向を進めるだろうが,ミーム進化は遺伝的進化より素速く,そのような傾向に対抗する形質を進化させるだろう.私たちの意思決定は遺伝子の頑固さとミームの素早さの相互作用の中で形作られるのだ.

 
当然ながらミームと宿主の利益は常に一致するわけではない.だからそこにはコンフリクトが生じうる.ここで遺伝的な自然淘汰は最終的に脳の構成を決定できるので,自分にとって不利になるようなミームを受け付けないような淘汰圧がかかるはずだ.しかしミームは進化の素早さでそれに対抗するというのがヘイグの説明になる.このあたりはかつてのミーム論の議論ではよく見られた問題で,最終的には遺伝子が勝つのか(遺伝子は長いリードを持つのか)はホットトピックだった.
ここからヘイグはこの問題についてゲノム間コンフリクトを絡めた議論を展開する.