Animal Behavior 11th edition Chapter 14 その7 

Animal Behavior

Animal Behavior

Amazon
 

第14章 ヒトの行動 その7

 

女性の配偶者選択(承前)

 
ヒトの女性の配偶者選択.まずここでは身体的な魅力を取り上げ,それがよい遺伝子のハンディキャップシグナルである可能性を議論した.しかしどのような外見の相手を魅力的だと感じるかについては文化の影響もある.ここでは男性顔と攻撃性の関連が指摘されている.
 

  • これらの結果は進化史の中でそのような男性(健康状態や身体の強さをハンディキャップシグナルで示している男性)はうまくやってきただろうと考えさせるに十分だ.しかしこのような解釈には注意が必要だ.例えば国際比較した場合,男性的な顔が女性に好まれるのは先進国だけであり,より経済発展している国ほど男性顔から攻撃性が想起されている.これはこの男性顔と攻撃性の関係が進化史を通じて存在したというアイデアを疑わせるものだ.むしろこのような連想はごく最近の都市化とともに生じたことを示唆しているのかもしれない.

 
ここの議論は背景があまり説明されていなくてやや解釈は難しい.なぜ先進国でのみ男性顔と攻撃性が結びつくのだろうか(都市化に伴ってなぜそのような関連が生じるのだろうか).そしてなぜ先進国のみで(むしろ先進国でこそむき出しの攻撃性は嫌われるような気もするのに)男性顔が魅力的とされるのだろうか.
このあたりの男性の顔の魅力の微妙さについてはさらにボックスで解説されている.
 

BOX 14.2 女性の選択と,優位男性の特徴vs魅力的な男性の特徴

 

  • ここで示したリサーチは人々が理想的な配偶相手に何を求めているかを示唆している.しかし理想的な相手は絶対数が少ない.すべての男性がモデルのような美人と結婚できるわけではないし,すべての女性が金持ちで子育てを手伝う愛すべき男性と結婚できるわけでもない.実際の選択はベストから遠いところでなされる.
  • 男性と女性の配偶者選択基準はしばしばかなり異なっている.ここである研究例を見てみよう.それはヒトの顔の特徴の一部はその発達時期のホルモンレベルを示しており,女性はそれを潜在的配偶者の魅力度の判定に使っているというアイデアをテストするものだ(スワドルとレイアソン2002).結果は女性が優位性(dominance)を感じる男性の顔はハイレベルテストステロンの影響を受けた顔であり,それは女性が魅力を感じる顔とはずれている(よりテストステロンレベルが低い顔に魅力を感じる)ことを示している.

 
このボックスで紹介されているリサーチでは男性の顔をコンピュータ上で20段階に変形させているが,示されている写真を見ると非常に微妙な変形にとどめている(バカっぽくなる超男性顔のような変形はない).それでも女性たちがドミナントな男性を選んだ場合と魅力的な男性を選んだ場合で標準偏差で2程度ずれているように(グラフ上では)見える.これは先進国*1では男性顔の魅力はハンディキャップシグナルなら予想されるような男性顔っぽさが強ければ強いほど魅力的という形ではなくどこかに最適点があるような形になっているということだろう.*2何れにせよいろいろ微妙なことがよくわかるような記述になっている.

*1:このリサーチの被験者が先進国の女性だけかどうかは明示的には触れられていないが,文脈的にはそのように読める.正確には原論文にあたる必要があると思われる.

*2:なおその信号の正直さがどのように保たれるかに興味が持たれるが,そこには触れてくれていない.