Animal Behavior 11th edition Chapter 14 その9

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第14章 ヒトの行動 その9

  

女性の配偶者選択(承前)

 
本文では女性の配偶者の選好について恋人募集の新聞広告についてのリサーチが紹介されているが,もちろん昨今ではこのような目的にはオンラインアプリが圧倒的に使われている.そしてオンラインアプリの場合にはまさにビッグデータが利用可能になる.このあたりのリサーチについてはボックスコラムで解説されている.

BOX 14.3 オンラインの世界におけるヒトの配偶者選択

 

  • デートの世界は新聞広告からオンラインアプリに移り変わり,進化心理学者がヒトの配偶者選好について得られるデータは急速に増大している.2017年現在最も使われているアプリはTinderであり,1億回以上ダウンロードされ,1日あたり10百万人のユーザーが使用している.これらのデータを使用すればリサーチャーは男女がどんな相手を望んでいるかだけでなく,実際にどんな相手を選んでいるかを調べることができる.
  • 新聞広告とオンラインアプリの最も大きな差は後者はヴィジュアルイメージを強調していることだ.Tinderではセルフィーと自分のパーソナリティの特徴(どんなときに笑い,どんなときにしかめ面をするか,趣味,友達やつきあい仲間など)を示すと考える写真を何枚かアップする.Tinderでは1/3のユーザーが全く文字情報をあげない.
  • オンラインアプリでは写真があるほうが多くのビューを得られる.写真も1枚より複数の方が(特に男性から)よりリアクションされる.
  • 女性の方がより強く選り好み,スクリーニングに時間をかける.男性も女性とは違うところに選り好みを示す.(これまでの伝統的なデータで得られた知見と整合的に)女性の好みはより収入,教育レベル,仕事に関連し,年齢的には自分と同じか少し上の男性を好む.男性は年齢的には自分と同じか少し下の女性を好む(ヒッシュほか2010).
  • さらに女性は高目のBMI,自分より高身長の男性を好み,男性はその逆の好みを示す.興味深いことにユーザーたちは写真の選択を通じて自分の印象(身長のシグナルや力強さの印象)を操作しようとしているようだ.男性はより背が高く力強く見えるようなセルフィーを選び,女性はその逆の印象を与えようとする(セジウィックほか2017).

 

 
このあたりは各国のデータを使って文化間の違いも調べられそうで面白い領域だと思う.もっともほとんどが既往知見の追試みたいになるので,リサーチャーとしてはあまりそそられないのかもしれない.
  

  • これら(高収入の女性がより高収入の男性を好んでいるという)リサーチが示しているのは女性の社会的状況はその配偶者選択基準に影響を与えるということだ.魅力的な女性はそうでない女性に比べて,より対称的で男性顔の男性,より高収入な男性,よりコミットメントをしてくれる男性,より子育てを手伝ってくれそうな男性を好むのだ.競争力のない女性は高望み(それは実現可能性が低くコストも高い)しないのだ.
  • 興味深いことに,似たようなことは他の動物でも見つかっている.(キンカチョウのリサーチが紹介されている)

 
著者たちはあまり解説してくれていないが,これは配偶市場は互いに選びあう場なので,相手の選好は相手の配偶価値だけでなく,自分の配偶価値も考慮に入れる必要がある(高望みしても相手にされない.自分を選んでくれそうな相手の中で選ばないと配偶にこぎ着けない)ということが配偶心理に影響を与えていると説明できるだろう.
 

  • 配偶相手の好みと配偶行動はまた別の話だ.女性は好みの男性とよりセックスするのだろうか.アチェ族のリサーチやルネサンス期のポルトガルのデータではよいハンターで魅力的な男性や社会的地位の高い男性はより婚外子を作っている.しかし社会的地位の高い男性は女性を強制しやすいのかもしれないし,多くの社会では男性は婚外子にはあまり子育て投資をしない.だから女性の好みを調べるときにはその直接的なメカニズムにも注意することが必要だ.

 
最後に女性の配偶者選択についてのまとめがおかれている.
 

  • もし私たちが進化的過去を心理に刻印されているとするなら,今日の西洋社会の女性も配偶相手を選ぶときには,基準として(男性の)リソースコントロール能力やそれと相関する社会的地位を使うだろう.実際に西側諸国のリサーチでは男性の収入と繁殖成功は強く相関している(いくつかのリサーチが紹介されている).だから男性が金や地位を求める心は過去の淘汰産物なのかもしれない.そして女性の金と地位を基準に男性を選ぶ心も同じく淘汰産物なのだろうし,そこにはランナウェイ性淘汰の要素もあるだろう.

 
男性が金や地位や権力に固執するのは,女性がそのような男性を好むからであるというのは,その男性の心の産物である家父長制で苦労する女性から見るといかにも理不尽な話だが,因果の向きはこの方向なのだろうと思う.
 
以上が女性側の選択だ.ここから男性側の選択が解説されることになる.