Animal Behavior 11th edition Chapter 14 その8 

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第14章 ヒトの行動 その8

 

女性の配偶者選択(承前)

 
女性の配偶者選択.まず良い遺伝子を選んでいると思われる外観的特徴を見た跡,次に子育てリソース獲得の面から選んでいるものを取り上げる.つまり収入や地位だ.
  

  • 女性にとって男性の子育て投資見通しが重要ということは,(あまり避妊のない文化において)富裕な配偶者を持つ女性の方がそうでない女性より高い適応度を得ているというリサーチから明らかだ.(狩猟採集民族でのいくつかのリサーチが紹介されている)
  • これは現代社会にも当てはまる.現代でも世帯所得は子どもの健康と相関し,それは子どもが成長するにつれてより強く現れる.子ども期の慢性疾病は大人になってからの所得に影響し,それによって世代を越えて貧困による繁殖成功の負の影響が伝わっていく.
  • これらの結果を受けて,一部の進化心理学者に「女性は富,社会的地位,政治的権力を容姿より重要視するだろう」と考えた.この予測はバスによるアンケート調査リサーチによって裏付けられた(バス1989).しかしながら(この「容姿か金か」の優先性についてはっきりとした性差があるのは確かだが)その優先度の差はどちらの性にとっても絶対的に大きいわけではない.
  • またアンケート調査では回答者がどの要素をどれぐらい評価したかはっきりしないという問題もある.これに対して実験参加者に配偶相手の要素を改善する(配偶通貨)予算に制限のある中で自分の好みの配偶者像を作ってもらうという形で調べたリサーチがある(リーほか2002).予算制限がきついときには男性は予算の21%を相手の容姿を上げるために使ったが,女性は10%しか使わなかった,相手の収入を上げることに対しては女性は予算の17%を使ったが男性は3%だけだった.(予算が潤沢になると性差はなくなる).この実験は配偶者選択の基準が男女で異なっていることをよく示している.
  • 今日のオンラインデートアプリやかつての恋人募集の新聞広告では自己紹介の語数が限られている.これは実際の世界で人々が配偶者選択において何が重要だと考えているかをよく示している.
  • 例えば異性愛の女性は相手が裕福かどうかを気にしており,自分より少し年齢が上の男性を望む.しかしながら父親の年齢が上がるにつれ,幼児生存率は下がり,その子のその後の繁殖成功は下がり,これは年齢が上の男性を望む女性には不利に働くだろう.両方の効果を考えると30代の男性が最も望ましいと考えられる.新聞広告から男性の年齢別の需要と供給を測定すると,年代別の男性のマーケット価値を計算できる.そしてそれは実際に30代後半でピークを付けていた(ポロウスキーとダンバー1999).
  • 女性は本当にそんなことを(無意識も含めて)計算しているのか? それともそれは単にほとんどの社会で男性が経済を牛耳っているために,裕福になりたい女性は(自分だけでは裕福になれないから)裕福な相手を求めているというだけなのだろうか.もし後者が正しければ,女性が経済的に独立できるならこの好みは薄れるはずだ.しかし実際には高収入の女性はより高収入の男性を好むということがデータで示されている.(いくつかのリサーチが紹介されている)

 
このあたりの配偶者選択における性差の知見は初期の進化心理学の業績として有名なところだ.途中に出てくる配偶通貨による実験はユニークで面白い.