Animal Behavior 11th edition Chapter 14 その10

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第14章 ヒトの行動 その10

 
女性側の配偶者選択を詳しく議論したあとは,男性の配偶者選択を議論していくことになる.
  

男性の配偶者選択
  • ショウジョウバエのオスは多くのメスと交尾することにより繁殖成功が高くなる.だからヒトの男性が(女性より)多くのセックスの相手を求めるのは不思議ではない.そしてそれは選択基準を下げることにより可能になる.
  • 確かに短期的配偶戦略は多くのセックス相手を得られ,子育て投資にあまりコミットせずにコストをかけないことを可能にするので有利な側面がある.
  • しかしながら多くの男性が長期的配偶戦略を採っている証拠がある.長期的戦略には(追加の相手を探すコストがないとはいえ),高い配偶価値を持つ女性は選択基準が厳しいために望む女性が選られないリスクや,得られた後の配偶者防衛のコストがかかる.では長期的配偶戦略のメリットは何だろうか.1つは子どもの父性をより確実にできること,そしてもう1つはより高い配偶価値を持つ女性から選んでもらえることだ.これにより短期的配偶戦略を採る場合よりも子どもの数が減るかもしれないが,より高い質の子どもを得ることができる.
  • 結局男性がどちらの戦略を採るかは,その資質と環境に依存するのだ.

 
まず最初は基本的な部分からの解説になる.男性側の都合だけなら一見短期的配偶戦略(複数の女性とその場限りのカジュアルセックスをくりかえそうとする)の方が子どもの数を稼げそうだが,そうなっていないのはなぜかがまず問題になる.短期的配偶戦略は多くの哺乳類で見られるもので,特に自分が優位なオスであるなら追求した方が有利そうに思えるからだ.基本的には相手女性の配偶選択基準を含むさまざまな環境に依存してどういう戦略が有利かが決まるわけだが,本書では子どもの父性の確実性とより高い基準の女性を配偶者にできるメリットが強調されている.この他には両性の協力による子育ての効率性,集団内の他の男性たちとの協力関係の築きやすさなども考えられるだろう.
 

  • 男性はどのような女性を望むのか.女性と比べて収入や社会的地位より容姿を重視しそうだというのは先ほど見たところだ.では容姿を基準にすることにはどのような進化的な利点があるのか.進化的にいえば,容姿がいいのは繁殖力が高いことの指標になっているからだ.20代で健康で太りすぎても痩せすぎてもいない女性は無事に妊娠出産しやすい.
  • 西洋社会の男性は「女性らしさ」を好む.これは発達時に異常がなかったこと,健康,強い免疫システム,高いエストロゲンレベル,そして(最も重要な)若さと関連する.特に男性は豊かな唇,小さな鼻,大きな胸,くびれたウエストと大きなヒップ(低いWHR),肥満でも痩せすぎでもないことを好む.エストロゲンレベルが高くて大きな胸とくびれた腰を持っている女性はそうでない女性より3倍も妊娠しやすいというポーランドのリサーチがある.
  • このくびれた体型(低いWHR)への好みが通文化的に見られること,先天的な盲人男性でもタッチによって同様の好みを示すことから,この好みが西洋視覚文化の影響のためだということはありそうにない.これは淘汰産物なのだ.

 
まず西洋男性の好みを示し,それが実は通文化的だったのだという議論の進め方は学説史的な解説になっていてやや感慨深い.文化間での好みの微妙な差もなかなか面白いテーマだが,ここでは掘り下げられていない.