From Darwin to Derrida その105

 

第10章 同じと違い その14

相同をめぐる考察から始まった本章は,その後ワグナーの議論を扱い,さらに関連トピックとして進化制約と進化容易性を扱った.
相同の概念をめぐる論争の背景には生物の特徴を機能から考える淘汰的視点(そしてその背景にある目的因)と,「原型」に支えられた構造から考える視点(原型はプラトン的イデアに関連する)の違いがある.しかし生物進化にイデアはなじまず,結局相同は遺伝子の複製から理解できる(遺伝的相同概念)というのが遺伝子中心主義的なヘイグの立場になる.
それを批判して何とか形態的相同を救おうとしたのがワグナーになる.彼は相同を進化制約と進化容易性から組み立てようとし,遺伝子ネットワークやトランスポーザブルエレメントを特殊化した議論を行ったが,それはヘイグに厳しく批判される.そしてヘイグは遺伝子中心主義からどのように進化制約と進化容易性が理解できるか,そしてモジュール性が進化制約になるかどうかは環境依存であることを示した.

ここから本章は自然淘汰がある遺伝子にかかる時には他の遺伝子はその淘汰環境になり,それが複雑に絡み合ったいるという点に焦点を合わせる.
  

形相因 その1

 

  • 淘汰はいくつかの代替的選択肢の中から選ぶ過程だ.戦略的遺伝子を形式主義的に描くなら,「アレル間の差に自然淘汰がかかるには3つの選択コンポーネントが必要になる:遺伝型的差異,表現型的差異,そして淘汰環境だ」ということになる.
  • この形式主義の元では,淘汰されるアイテムとして,表現型は何らかの差異があるものをすべて含むことになり,環境は同じであるもののすべてを含むことになる.すると保存されている身体の形態やゲノムは淘汰環境だということになる.そして選ばれた遺伝的変異はその記録となる.環境の選択が一貫して繰り返されていると,代替選択肢の一部は固定され,淘汰環境となる.このようにして自然淘汰は可変的要素(選ばれる側)を固定要素(選ぶ側)に変えるのだ.
  • 遺伝的差異が表現型差異を生む過程は作用因と考えることができ,表現型差異が遺伝的差異の複製を生む過程は目的因と考えることができる.そのような過程は進化した構造(身体)とそれを構成する物理的実体(質料因)の両方に存在し,過去の選択(形相因)の情報はゲノムに書き込まれる.それぞれの選択における淘汰環境にはすべての身体の様相や共通するゲノム配列が含まれる.

 
この当たりからヘイグの議論は哲学的な雰囲気を帯び,難解になる.基本的に質料因と作用因はメカニズムを説明するもので,発生発達が作用因で説明でき,それにより作られた身体の構造は質料因で説明できる.そして形相因と目的因が淘汰を説明することになる.過去の淘汰結果は形相因で,現在進行中の淘汰は目的因だというのがヘイグの見立てだ.