From Darwin to Derrida その110

 
 

第11章 正しき理由のために戦う その4

 
進化を考えると表現型と遺伝型は再帰的に互いに因果影響を与えあう.その中で分子生物学者は遺伝型がどのように発現し発生を経て表現型を作るのかに関心があり,進化生物学者は表現型が適応度を経由してどのように遺伝子頻度を変えるのかに興味を持つということになる.
ここからヘイグはさらに込み入った再帰としてレトロエレメント(RNA配列をDNAに(逆)転写するもの)を取り上げる.


 

逆再帰(Retrorecursion)

 

情報は物質的なパターンとしてのみ存在できる.しかし同じ情報は様々な異なる物質の上に多様なやり方で記録できる.あるメッセージは常に何らかの媒体に記録されるが,媒体自信はメッセージではない.

Williams, G. C.  Natural Selection: Domains, Levels, and Challenges

 
冒頭にはジョージ・ウィリアムズからの引用がある.ウィリアムズの自然淘汰についての本としては「Adaptation and Natural Selection」が圧倒的に有名だが,この「Natural Selection: Domains, Levels, and Challenges」は90年代に書かれたより学術的な本のようだ.
どうもこの本はオープン化されているようで,このページからPDFがダウンロードできるようだ.
https://brandvainlab.files.wordpress.com/2014/11/naturalselection_williams.pdf
https://brandvainlab.files.wordpress.com/2014/11/naturalselection_williams.pdf


さらに今調べてみるとなかなか電子化されなかった「Adaptation and Natural Selection」も2018年にドーキンスの序文つきでKindle化されているようだ.これはちょっとそそられる.

 
 

  • ほとんどの真核生物のゲノムは様々なレトロエレメントを内包している.そのようなレトロエレメントはそのDNA配列をRNAを介して複製し,(同じことだが)そのRNA配列をDNAを介して複製する.その過程ではどんな構造も永続しない.DNA配列はRNAにコピーされ,RNA配列はゲノムの別の場所のDNAにコピーされるのだ.(ここでフィネガンのレトロトランスポゾンの論文が参照されている)
  • LTR型レトロトランスポゾンはよい実例だ.外見的にはゲノムDNAの二重鎖であり,アンチセンス鎖のDNAからセンス鎖のRNAに,ホストがエンコードしたRNAポリメラーゼにより転写される.これにより生まれたRNAには2つの機能的な運命がある.それはmRNAになりGagタンパクやPolタンパクに翻訳されることもありうるし,GagタンパクやPolタンパクにパッケージされたゲノムRNAとして感染性の粒子となることもありうる.
  • Polは注目すべきガジェットだ:(1)逆転写酵素として働き,ゲノムRNAの相補的なアンチセンス鎖DNAを合成する:(2)ヌクレアーゼとして働き,RNA鋳型を分解する:(3)DNAポリメラーゼとして働き,アンチセンス鎖からセンス鎖のDNAを合成する:(4)インテグラーゼとして働き,二重鎖をホストDNAの新たな部位に挿入する.
  • センス鎖のRNAはタンパクを作る鋳型にも,アンチセンス鎖DNAを作る鋳型にもなる.しかし同一のコピーが同時に両方の機能を果たすことはできない.

 
GagタンパクやPolタンパクのことは知らなかったのでなかなか興味深い.ここからヘイグはレトロトランスポゾンを取り上げていく.