From Darwin to Derrida その141

 

第12章 意味をなすこと(Making Sense) その6

 
だんだん難解になる「Making Sense」.「意味」は物理的存在は離れてはあり得ないという主張の後,「解釈」について深堀が為される.
 

解釈の解釈

 

  • 非生物世界は生物の解釈者にとって有用な非意図的な情報の宝庫だ.非意図的情報は他の解釈者の解釈のなかにもある.解釈を再解釈するときには,最初の解釈者(情報の創造者)の意図と2番目の解釈者(情報の消費者)の意図を区別することが必要だ.

 
情報の創造者と情報の消費者というのは普通の用語で言えば信号の送り手と受け手ということになるだろう.送り手が受け手にどのように解釈してほしいと思っているかと受け手が実際にどう解釈するかは異なることがあるという意味になるだろう.基本的に生物世界では信号は相手の操作のために行われるので,利害が一致しない場合には意図の読みあいになるのはむしろ当然ということになろう..
 

  • チータに追われたガゼルの回避行動は捕獲されにくくするという意図による.チータはガゼルを捕獲する意図を持ちガゼルの動きを観察し解釈する.これらのチータの解釈はガゼルに意図されたものではない.
  • 健康なガゼルがチータではなくリカオン(hunting dogs)を見るとき,ガゼルはそれをストッティングすべき状況と解釈する.リカオンはストッティングしない(あるいは弱々しくしかストッティングしない)ガゼルをより追いかける.健康なガゼルとリカオンはともに,リカオンが弱いガゼルを追いかけることにより利益を得る.リカオンがストッティングしないガゼルを追いかけるという決断は健康なガゼルの意図するものだ.
  • ストッティングの進化的合理性は,ストッティングは「このガゼルはリカオンより強壮で持久的な追跡が失敗する可能性が高く,追うに値しない」ことをリカオンに示すシグナルだというところにあると考えられている.

 
ここはちょっと驚きだ.これまでガゼルのストッティングについて私が読んだものは.このディスプレイは捕食者向けとされていて,具体的にはチータやライオンが念頭に置かれていた様に思う.例えば最近のオールコックとルーベンシュタインの行動生態学の教科書ではトムソンガゼルがストッティングディスプレイを行う相手はチータであると書かれている.
またここではAfrican wild dogsではなく,hunting dogs(通常は猟犬の意味になる)と表記されているのもちょっとよくわからない.猟犬では状況的にも進化的にも意味が通らないだろうと考えて.リカオンと訳してみた(African hunting dogsでリカオンをさす用法もあるようだ)ところだ.
いずれにしてもガゼルが短距離高速追跡型の捕食者に対してはジグザグ走りをしてもストッティングはせずに,中長距離持続追跡型のリカオンに対してはストッティングするということについては,1988年の論文が引用されている. 
 
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